1982年発表のデビューアルバム Kissing to Be Clever 所収。
英1位、米2位(マイケルジャクソンの Billie Jean にトップを阻まれる)を記録したヒットシングル。
Do You Really Want to Hurt Me
(Hay, George, Craig, Moss)
Let me love and steal
I have danced inside your eyes
How can I be real
愛を与える事も奪う事も許して下さい
君の瞳の中で踊ってきた僕は
どうしたら本当に触れてもらえるのか
Bm Bm
G D Em
Do you really want to make me cry
C G Am
Precious kisses, words that burn me
Bm
Lovers never ask you why
本気で僕を泣かせるつもり
愛おしいキス、僕の身を焦がす言葉
愛し合う者同士に理由は無用
Choose my colour, find a star
Precious people always tell me
That’s a step, a step too far
自分で色を決めて星に仕立てる
それじゃあやり過ぎだよなんて
いつもしたり顔で言う人もいるけど
G D Em
Do you really want to make me cry
C G Am
Do you really want to hurt me
Bm G6 BbM7
Do you really want to make me cry
AbM7 Gm
本気で僕を泣かせるつもり
本気で僕を傷つけるつもり
本気で僕を泣かせるつもり
I could waste a thousand years
Wrapped in sorrow, words are token
Come inside and catch my tears
この先何年もこのままでいたって構わない
悲しみに包まれていれば言葉なんてただの記号
懐に入って零れる涙を受けてほしい
If it’s true, you do not know
This boy loves without a reason
I’m prepared to let you go
もし本気で言っているなら、君は分かっちゃいない
この僕という男が君を愛すのは理屈じゃないって事が
もう別れの覚悟は出来てるよ
Then take it away
Everything’s not what you see
It’s over again
そんなものは持ち去ってくれていいよ
君には全てが見えるわけじゃない
こうしてまた終わりが来た
G D Em
Do you really want to make me cry
C G Am
Do you really want to hurt me
Bm G6 BbM7
Do you really want to make me cry
AbM7 Gm
本気で僕を泣かせるつもり
(break on Gm)
G D Em
Do you really want to make me cry
C G Am
Do you really want to hurt me
Bm G6 BbM7
Do you really want to make me cry
本気で僕を泣かせるつもり
G D G6 Bb
Do you really want to make me cry
本気で僕を泣かせるつもり
2回目の cry の歌唱ピッチはAとBbの間のどっち付かず。だからコードも正確にはBbM7とBbの間のBbM7.5といった所か(勿論こんなコード表記は存在しない)。
エンディングの歌唱はBb寄りなのでコードもBbとした。
では詞と語について。
realise
これは一般に英国綴りと言われる。
ラテン語起源の仏語 réaliser の変形。
すると米国綴りの realize は語の歴史を少し無視している事になるが、-ize には他の様々な語にも付く統一性があり、また濁音だと分かり易いから一定の合理性はあるとすべきか。
love and steal は give and take に類する連語と見なして対訳している。
愛を与える事と奪う事。
君の瞳の中で踊る、とは、二人に距離がある様を表すと解釈。
すると、続く real は触れられるほど近くにいる事を言うのだろう。
表題の
Do you really want to hurt me
そして
Do you really want to make me cry
は、疑問文と言うより、牽制に近い。
2つの precious の前者は「大切な」、後者は「気取った」、と二様に取るべき。
colour はこれまた英国綴り。
ラテン語の color(外見、覆い)から古フランス語 coulour を経由して英語となった。
その colour から u が脱落し、米国綴りでは color となった。
こっちは偶然か米国綴りの方が見た目の正統性を結果的に保持している。
a step too far = 行き過ぎ
口数の多い相手とは対照的に言葉少なにしている主人公にとっての愛は言葉や理屈で実現できるものではない。
求める形が違う事を悟り別れを決意した主人公は、(相手にとっての)愛を持ち去るよう言い捨てる。
そしてGmの不気味なブレイクになだれ込む。
冒頭で触れたどっち付かずの含みのある響きも、このブレイクのホラー仕立ても、全てボーイジョージの妖術の仕業。惑わされぬようご注意あれ。
さて、バンドのフロントマンたるそのジョージが Irish queen (アイリッシュのゲイ)を自任しながら Boy (男の子)というステージネームを名乗った時点でそれ自体が既に巧みな芸術たり得る。デビューアルバム収録曲の表題にも Boy の文字が躍り、妖艶な見た目に相反する名前で聴き手を華麗に撹乱。Boy Boy (I’m the Boy)に至ってはもう分かりましたよと言うしか無いが。
本作では詞中に唐突に this boy が登場。それまで I で語っていた筈の自身を「この男の子」とやにわに言い換える(日本語っぽい修辞ではある)。
おまけに所属レーベルは Virgin… ウブな僕チンにはもう何が何だか…
でもまだ終わらない。四人の人種は四様。国境を跨いだかと思ったら今度はMVのレトロな描写で時間の旅にまでいざなう。時も空も超越。
彼らの音楽は New Wave に括られはするが、本作MVの戦前の時代設定とその視覚描写を背景に流れるサウンドトラックとに違和は無い。同じ事は Karma Chameleon にも言える。不思議だ。
そしてそんな掴み所の無さ(多さ?)がそのままこのバンドの魅力になっていると言っても的を失してはいまい。
バンド名は略称なのだろう、本名は「文化時空性別超越倶楽部」に違い無い。
先日のベストヒットUSA出演時、ジョージは本作の詞について too personal (ごく個人的なもの)と形容してはいたが、実はドラマーのジョンモスだけでなく当時の複数のボーイフレンドにも関係する内容だと別の所では明かしている。これは嘘でも記憶の書き換えでもなかろう。
ただ若い頃お盛んだったのは分かるが、彼の性欲征服欲は後年になって減退するどころか獄に繫がれるまでに大暴れ(ま、キメてもいたらしい)。
ネットで知り合い監禁された被害者の恐怖は如何ばかりか察するに余りあるが、のこのこロンドンのジョージの自宅まで出向いたとあっちゃ飛んで火に入るノルウェー人。言葉(words)でも理屈(reason)でもない、つまりジョージを愛へと導くのは他ならぬ本能だとこの歌が警告していた筈なのに！
ただ拘束されながらもジョージにこの一言をぶつける勇気と時機は無かったもんか。
Do you really want to hurt me
そしたらきっと real の堪能真っ最中のジョージだってハッとして
Give me time to realise my crime
と我に返っていただろうに。
いや、もっとお仕置きされてたか…
Boy George – Do You Really Want To Hurt Me 2021
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