1993年発表の、第3作にして最後のスタジオアルバム In Utero 所収。
翌94年4月、このアルバムからの第3弾シングルとして発売される予定だったが、作者コベインの死により見送られた(一部ドイツでは発売)。
Pennyroyal Tea
(Kurt Cobain)
*半音下げチューニング
I have very bad posture
俺の姿勢は悪い
Distill the life that’s inside of me
Sit and drink Pennyroyal Tea
I’m anemic royalty
俺の内なる生命を引き出す
座ってペニロイヤル茶を飲む
俺はやる気の無い王族
So I can sigh eternally
永遠に嘆いていられるように
I’m a liar and a thief
Sit and drink pennyroyal tea
I’m anemic royalty
俺は嘘つきで泥棒
座ってペニロイヤル茶を飲む
俺は貧血の王族
(interlude)
Cherry-flavored antacids
それにさくらんぼ味の胃薬が無いとダメ
Distill the life that’s inside of me
Sit and drink Pennyroyal Tea
I’m anemic royalty
Am
俺の内なる生命を引き出す
座ってペニロイヤル茶を飲む
俺はやる気の無い王族
very bad posture
身体的と精神的の二様に姿勢が悪いと言うのだろう。
事実彼はひどい猫背で、それが慢性的な胃痛の一因でもあった。
distill = 蒸留する、引き出す
Pennyroyal Tea と royalty
これはカッコ良く言えば完全韻、平たく言えばダジャレ。
anemic = 貧血症の、無気力な
茶を嗜み王族気取りに見えるが実は不健康だと言うのだろう。
レナードコーエン(1934-)は禅僧でもあるカナダのシンガーソングライター。
実際の歌唱に a は聞こえないが a Leonard Cohen で、レナードコーエンの作品、一曲、を指す。
指が速過ぎてどうやって弾いてんだかよう分からん…
まだ現役!声も出とるし指も全然動いとる。スゲー…
afterworld = 死後の世界
ここでは副詞的な使い方。
laxative = 緩下剤
antacid = anti(反)+acid(酸) = 制酸剤→胃薬
余談
laxative の lax は relax(リラックス)と同源。緩める、の意。
これは便の水分を増すという、薬の作用機序を説明するもの。
ところが、緩やかに効く、と作用強度を説明するものと誤解し、反対の峻下剤なる言葉も生んだ。
実際には強度による分類も有意だろうからこれらの言葉がナンセンスだと言うものではないが、成り立ちには語の意の誤認が影響していよう。
日本人が勝手に付けたんだろうからまさか中国語にはあるまいと思うも念のため辞典をあたってみる。
缓泻剂に峻泻剂… あるんでやんの。言葉を輸入したのはどっち?
さて、表題のペニロイヤルとはスペアミントに似た香りのハッカで、堕胎の民間薬。
実際に泌尿生殖器系を刺激して反射性子宮収縮の誘因となり得るも、大抵は致死量服用時のみ。
コベインはこの薬効の矛盾を植物療法を実践するニューエイジのヒッピー達に当て付けた。
彼の日記に曰く、
herbal abortive… it doesn’t work, you hippie.
“ハーブの堕胎薬… 効かないよ、ヒッピーめ”
ただ第3バースの牛乳下剤胃薬の件は明らかな自己言及なので、その矛盾を自身にも皮肉として当て付けていたのだろう。
こちらは伝記より。
I’ve never found herbs to ever work for me—anything. Ginseng and any of that other shit is all a bunch of hippie left wing fascist propaganda.
CoMe aS YoU ARe: THe StoRY oF NiRVaNA, p. 328
ginseng(< jên shên 中国語 = 人参) = 朝鮮人参(の根)
朝鮮人参の薬効の有無はさて置き、コベインの極左ヒッピー(即ちファシスト)嫌いが窺える発言。
彼をリベラルの範疇に安易に組み入れるなかれ。
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