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歌詞和訳 Nirvana – Heart-Shaped Box コード

1990s

1993年発表の、第3作にして最後のスタジオアルバム In Utero 所収。英5位のヒット曲だが、米国ではシングルリリース無し。
Am F D のコードパターンが愚直に繰り返されるが、サビではベースが暴れる。

Heart-Shaped Box

(Kurt Cobain)

Am F D Am F D
She eyes me like a Pisces when I am weak
I’ve been locked inside your heart-shaped box for weeks
I’ve been drawn into your magnet tar-pit trap
I wish I could eat your cancer when you turn black
俺がまいってると魚みたいな目付きで見てくる
君のハート型の箱にここしばらく閉じ込められっぱなし
磁石みたいなタール溜りのトラップに引き込まれちまった
君が黒くなったらそのガンを食べてやれればいいんだけど

Am F D
Hey! Wait! I’ve got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
Hey! Wait! I’ve got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
Hey! Wait! I’ve got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice F D
Your advice F D
おい、ちょっと待ってくれ、また不満が増えちまった
君からの有難いアドバイスの借りがこの先も返せそうにない

Meat-eating orchids forgive no one just yet
Cut myself on angel’s hair and baby’s breath
Broken hymen of your highness I’m left black
Throw down your umbilical noose
so I can climb right back
肉食のランはまだ一人たりとも容赦していない
天使の髪と赤子の吐息で怪我をしてしまった
貴女の破られた処女膜、俺は暗澹としたまま
へその緒を下ろしておくれよ
それを伝って胎内に帰っていくから

Hey! Wait! I’ve got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
Hey! Wait! I’ve got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
Hey! Wait! I’ve got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice F D
Your advice F D
おい、ちょっと待ってくれ、また不満が増えちまった
君からの有難いアドバイスの借りがこの先も返せそうにない

(interlude in Am F D)

She eyes me like a Pisces when I am weak
I’ve been locked inside your heart-shaped box for weeks
I’ve been drawn into your magnet tar-pit trap
I wish I could eat your cancer when you turn black
俺がまいってると魚みたいな目付きで見てくる
君のハート型の箱にここしばらく閉じ込められっぱなし
磁石みたいなタール溜りのトラップに引き込まれちまった
君が黒くなったらそのガンを食べてやれればいいんだけど

Hey! Wait! I’ve got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
Hey! Wait! I’ve got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
Hey! Wait! I’ve got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice F D
Your advice F D
Your advice F D
Your advice F D
おい、ちょっと待ってくれ、また不満が増えちまった
君からの有難いアドバイスの借りがこの先も返せそうにない

第1バースには星座に纏わる、我々にはちょっとややこしい修辞がある。

作者カートコベイン 67年2月20日生まれ 魚座(Pisces)
妻 コートニーラブ 64年7月9日生まれ 蟹座(Cancer)

Pisces = 魚座(生まれの人)、魚類
cancer = 癌
ラテン語で「蟹」の意。Cancer = 蟹座
癌に冒された乳房の部位が蟹がへばり付いた様に見えた事からその病名に取られた。

eat your cancer
癌を食べるというのは愛情表現か、それとも皮肉か。

tar-pit = タールの池

turn back の所は black との記載が多く流布する。
が、back と聞こえる。


訂正
歌詞をふたつ訂正しました。
(you turn) back → black
(I’m left) back → black


Hey! Wait! I’ve got a new complaint
サビのこのラインは、作者コベインがいつも文句ばかり言っているというパブリックイメージを敢えてそのまま詞にしたと本人が言っている。
これがまやかしでなければこのラインは全くのシャレで、それはそれで皮肉めかしたオモロい詞ではあるが、やはりそのまま you に対して新たな不満が出来たと言っている様にも取れる。
Forever in debt to your priceless advice
次行でその不満とは you に対して借りがある事だと言う。
これを遠回しの謝辞と取れば、また you が妻のラブであれば、この2行のサビは、夫婦仲を疑うメディアの詮索から妻をかばってやる為のものだったのかも知れない。

彼には女性一般を神聖視する向きがあり、フェミニストだったと言われる。
それは、何か in debt (負い目がある)という気持ちの反動か、それとも女を軽視する男への憎悪から来る使命感か。

第2バースには生殖に纏わる修辞が散りばめられている。

orchid = ラン
ギリシャ語で「睾丸」の意(塊状根の形が似ている事から)。
しかし、肉食(meat-eating)という修飾が付き、(語源とは逆に)女性器のメタファーとして持ち出されている。
するとやはり彼には、女が男を容赦していないという認識があるのか。

Angel hair とは、聖母マリアに遭遇する時に出現する蜘蛛の糸の様な物。
baby’s breath = かすみ草
生命(赤子)の誕生(呼吸)や結婚(式)に纏わると思しき言葉を連ねている。
しかし、これらで怪我をする(Cut myself on…)とはどういう意味なのか。
誕生の瞬間に何らかの傷を負わされる、といった事だろうか。

hymen = 処女膜
your highness = 君の高位←Your Highness = 殿下(敬称、呼称)
umbilical < umbilicus = へそ
noose = 縄、絆

へその緒を手繰って子宮に戻るなどという、こんな直截な胎内回帰の描写というのもなかなか珍しいのでは。

本作は元は Heart-Shaped Coffin(棺)という題名だった。
回帰と死とに作者は何か通底するイメージを抱いているのか。
すると、本作は自身の性器について書かれたものという未亡人ラブの近年のツイッターでの言及は、一方の死のイメージを払拭しようとしたのかと邪推してしまう。

アルバム表題にある utero はラテン語で「腹、子宮」の意。
つまり in utero は、子宮の中、言い換えれば、まだ生まれてない、或は、上述の胎内回帰を表すのだろう。
そしてカバーアートは angel の羽が生えた人[女]体模型。
アルバム表題を冠する曲は存在しないが、本作が第1弾シングルだった事を併せ考えれば、実はこれが表題曲に相当する代表作であり、逆に言えばアルバムのコンセプトは本作によって規定されたのかも知れない。


追記

93年1月、ご乱心で出演した Hollywood Rock でブラジルはリオ滞在時に録音されたデモ版

Are we rolling? (録ってる?) Yeah.
この時もキマってたかは知る由も無い。

In Utero 原版はこの僅かひと月後の2月に録音されるのだが、異なる歌詞が散見。いくつか書き出してみる。
I’ve been buried in a heart-shaped box
I wish I could get your cancer when I am there
I wish I could catch your cancer when I am black

旧題に因んだ buried なる語が聞こえるかと思えば、棺桶そのものも登場する。
I’ve been locked in heart-shaped coffin

turn back の部分については turn black との見方が大勢を占める模様。これには恐らく(Wiki にも記載の)以下の記述が影響している。

“I wish I could eat your cancer when you turn black”, Kurt sang in what has to be the most convoluted route any songwriter undertook in pop history to say “I love you”.
Heavier Than Heaven: A Biography of Kurt Cobain, p.281

但し、コベインと交流を持ち、生前に Nirvana の伝記を著したマイケルアザラドとは違い、この著者は(既に故人の)彼に直接取材をしてはいない。またグロールへの取材も無い。あったのは商魂逞しい未亡人のお墨付きのみ…
つまりこの一文は、詞を読み解こうとする我々と同次元の言わば印象論に過ぎぬが、「ポップの歴史上最も複雑な I love you の言い方」などどいう(大仰な)言い回しは多くの者の心を捉えたのだろう。本は売れ、なんちゃら賞も受賞しちゃってるし。

上掲のRS誌にはラブのツイートは削除されたと書いてあったが、どっこい現存するんでやんの。

まあただの軽口だろう。勝手に言うてろ(Utero)。

その Lana Del Rey によるカバー

彼女は turn back と歌っている。
仰せの通りラブの性器を思い浮かべながら歌ったのだろうか。瞑目しちゃって何だか思案深げではある。

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