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歌詞和訳 Nirvana – Lithium コード

1990s

1991年発表の第2作アルバム Nevermind 所収。92年に第3弾シングルとして発表。

Lithium

(Kurt Cobain)

E G# C#m A C D B D


(verse 1)
E G# C#m A
I’m so happy cause today
C D B D
I found my friends, they’re in my head
I’m so ugly, that’s okay
Cause so are you, we broke our mirrors
Sunday morning is everyday
For all I care, and I’m not scared
Light my candles in a daze
Cause I’ve found God
Yeah, yeah, yeah
とってもハッピー、だって今日
友達が出来たんだ、頭ん中だけど
僕ってブサイク、でもいいんだ
君もだし、姿見なんて割っちゃったから
礼拝の日曜だっていつもと同じ
構わないさ、恐れる事もないし
目がくらんだまま蝋燭に火を点すのは
神を見たからさ
イェー


I’m so lonely, that’s okay
I shaved my head, and I’m not sad
And just maybe, I’m to blame
For all I’ve heard, but I’m not sure
I’m so excited I can’t wait
To meet you there, and I don’t care
I’m so horny, that’s okay
My will is good
Yeah, yeah, yeah
一人寂しい、でもいいさ
頭を剃ったらもう悲しくもない
耳にした事全部、僕の
せいかもな、でもどうだか
もうワクワクしちゃって君に会うのが
待ちきれないよ、まあいいけど
もうムラムラしちゃって、でもいいんだ
だって僕の思いは間違ってないもん
イェー


(bridge)
A C A C
I like it I’m not gonna crack
I miss you I’m not gonna crack
I love you I’m not gonna crack
I killed you I’m not gonna crack
I like it I’m not gonna crack
I miss you I’m not gonna crack
I love you I’m not gonna crack
I killed you I’m not gonna crack
D B
いい感じ、僕はくじけたりしないよ
君が恋しい、でもくじけない
君が大好き、僕は踏ん張る
君を殺したのは僕、でも何とかやってくよ


(interlude)
→(verse 1)(bridge)


ブリッジ以外は E G# C#m A C D B D の愚直なまでの繰り返し(弦1音下げ)。
このギターによるコード進行と歌メロとの絡みが絶妙。
特に C 以降は、音楽理論やらモードなんぞ糞喰らえという作者コベインならではの発明的創作。
勿論この絡みの妙を後から理論的に説明する事は出来るのだろうが、これはそもそも彼の生身に音感として備わっているものなのだろう。

これにドンシャリのベース音がアッケラカンと絡んでくる。
EQは極端なV字設定と察する。
こんなヤツ
mark-5-25-EQ-wattage-feature

因に始めの D は5フレの位置で最後のは開放のロウポジションで鳴らしている。
ビデオの3:00辺りの本人の運指に見て取れる。

ではまず Nirvana の伝記より引用。

The title of “Lithium” is an update on Marx’s description of religion as the “opiate of the masses.”
CoMe aS YoU ARe: THe StoRY oF NiRVaNA, p. 218

著者 Michael Azerrad は本作表題の Lithium を、マルクスの「(宗教は)民衆のアヘン」という表現の最新版だ、と評す。

lithium とは炭酸リチウム(Li2CO3)の事で、医療上は躁病や、コベインも患っていた(と言われる)双極性障害の治療薬として使われる。
アヘンも元は医療用。つまり薬にも毒にもなるもの。
彼はその両義を纏わせるつもりで表題に lithium を選んだのだろう。

しかしこのマルクスの言葉は宗教を批判するものだと意図的に曲解して引用する者が少なくなかった。
そしてその解釈が広まったので、今では誤解を避ける為、また真意を伝えようと、前段部分も含めて引用される事が多い。以下の如し。

宗教上の不幸は、一つには現実の不幸の表現であり、一つには現実の不幸にたいする抗議である。宗教は、なやめるもののため息であり、心なき世界の心情であるとともに精神なき状態の精神である。それは民衆のアヘンである。
「ヘーゲル法哲学批判・序説」

こっからちょっと話が逸れるので、メンドくせーって方は読み飛ばして下さい(話を戻しますまで)。


引っ掛かった方もあられようが、特に第1文は何か変な日本語。
そこで、原書は独語だろうが、英語はその親戚だから英文を参照してみる。

Religious suffering is, at one and the same time, the expression of real suffering and a protest against real suffering. Religion is the sigh of the oppressed creature, the heart of a heartless world, and the soul of soulless conditions. It is the opium of the people.

すると上の翻訳文の不自然さは構文の把握の至らなさに起因すると分かる。
正しい読み方は、
the expression of real suffering and (the expression of) a protest against real suffering
そして、the expression は能動的他動詞的に取られ易い「表現(すること)」と訳すより、現象的な「表出、表われ、しるし」とした方が良い。
なぜなら、虐げられている(oppressed)人が積極的に声を上げて訴えているのではなく、マルクスが現象として感知したのだから。
at one and the same time は、全く同時に、の意。
宗教に頼らなければならない状況が即ち苦痛であり、また同時に苦痛に対する抗議の表れだと更に踏み込んでマルクスが察知したという事。
私はこう訳す。
宗教にすがる苦悩とは、取りも直さず実際の苦痛の表われであり、同時にその苦痛に対する抗議のしるしでもある。宗教は、虐げられる者のため息であり、心なき世の心であり、魂なき状況下の魂である。それは民衆のアヘンである。
第2文は第1を比喩で言い換えたもので、そして最後は象徴的な隠喩でシメる構成。

意図的に強烈な言葉を使った史上初(?)の炎上マーケティングとの邪推も頭を掠めはしたが、強い訴えがそのまま強い象徴的な言葉に投影されただけなのだろう。
ただ、受け手が勝手に前後を切り捨て真意を捻じ曲げ意図的に自身の都合に合わせて伝えようとするのが今に始まった事でないとは少なくとも言えそう。古今東西の世の常か。

ついでに文句を言うと、heart/heartless, soul/soulless と対にして叙してあるので、心/心情、精神/精神 という訳出では気持ち悪い。
また、heart, soul 共に英語の固有語なので、私はそれに倣って邦訳にも日本の固有語たるやまとことば「心、魂」を選んだ(漢字表記にはしたが)。

実は元の翻訳文は日本共産党のしんぶん赤旗からの転載。

今でも彼らがマルクス主義なり科学的社会主義を標榜しているか否かは知らぬが、その担い手たる機関を自任するのであれば、この翻訳文に違和感すら感じないようでは科学的な団体とは言えない(因に、「違和感を感じる」という言い方は重言で誤りだと断ずる向きもあるが私はそれを修辞の一つと見なすのでこの表現に何ら違和感を感じない)。
党員だか支持者だかに対し、こんな分かった様な分からん様な文章で説明が足りていると思っているなら、本人達にちゃんと科学の視座があるのかは非常に疑わしい。
まさか、権威ある翻訳者の文章だから間違ってる筈がない、などと革新政党にあるまじき無批判な態度で流用したんじゃあるまいな。


追記

多様性の統一
EUの理念などに使われる united/unity in diversity に対する訳語のつもりだろうが、これでは「多様性を統一する事」としか読めない。

そんで…

日本語の当たり前の言語感覚を持った人からのせっかくの指摘を、逆ギレ気味に相手の理解不足と断じる始末。記事自体を的確にまとめて事前に示してやるのが見出しってもんだろうよ。
「互いの多様を認めた上での結束」くらいの気の利いた訳語なんて彼らには望むべくもない。

そんな言語感覚じゃ皮肉にも気が付けねーわな… ダメだこりゃ…


話を戻します
本作は、恋人の死後、自殺に走らず気を確かに持とうと宗教に頼る男の話で、実体験に基づく所もあるがフィクションだ、とコベインは言う。
更には先の著者アザラドにこう語っていた。

Kurt says he isn’t necessarily antireligion. “I’ve always felt that some people should have religion in their lives, he says. “That’s fine. If it’s going to save someone, it’s okay. And the person in that song needed it.” The song is not strictly autobiographical, but it’s easy to see a resemblance between Kurt’s despair and loneliness in Olympia and the sorry state that the character is in.
CoMe aS YoU ARe: THe StoRY oF NiRVaNA, p. 218

宗教の是非を断ずるのではなく、宗教的行為を現状の(苦悩の)表出と取っている点において、コベインの理解は本来のマルクスの意図した所と近いと言える。
科学的社会主義は宗教そのものを必ずしも否定してはいない。

we broke our mirrors
reflect(映す)する mirror(鏡)があれば人は self-reflective(自照する)になれる。
しかしそれを壊してしまったというのはもう省察などしないという事。
こんな詞を書くコベイン本人は reflective な人だろうけど。

Sunday morning は(キリスト教の)礼拝の朝を指す。
for all I care = 私の知った事ではない

in a daze = 呆然として
上の鏡の件も含め、やはり宗教行為は盲信に過ぎないと言うのだろう。

作者自身は幼少期に数週間程、かなり保守的で原理的(エバンジェリカル、福音派と言われる)なキリスト教の信仰を経験し[させられ]ている。先述の実体験とは恐らくこれ。
ただ長じて後は仏教やジャイナ教に関心は移る。

shaved my head
剃髪は帰依の証(仏教に限らない)。

happy かと思えば lonely だったり excited と感じるのは双極性障害の症状。ある時は manic(躁状態)、またある時は depressive(鬱状態)。
そして恋人の死に直面するが、

I’m not gonna crack

確たる信心を持って、ダメになったりしない、と宣言(少し解釈を加えるなら、crack = 自殺する、となる)。フィクションではあるが、コベインが生への強い執着を表明しているラインとも取れる。
I killed you は(勿論フィクション上の)自責の念の吐露か。

先述のEQのV字設定は、真ん中が抜けており、「双極性」を呈している。ま、私の勝手な連想で、まさかそんな含意は無いでしょうが。

チャドチャニングによるドラム

ここでは save your head と歌っている。

家で練習していた時にいつもバスドラの前に横たわっていた犬を亡くしたチャニングはしばらくその棺を運んで同じ場所に置いていたそうな。

さて、本作を通して今の世を眺むれば、異なる宗教のアヘンで酩酊した者同士が罵り合い傷付け合い、そして殺し合いをしているという事になるのか(否、させられている?)。
薬は毒にもなる。

コメント

  1. くま より:

    5年も前の記事に失礼いたします。

    炭酸リチウムですが、酩酊するということはあまりないと思います。
    効いているかどうかあまり分からない内に、段々と症状の波が抑えられていくという薬で、一般的に考えられているような向精神薬とはちょっと違うものです。作用機序も、まだよく分かっていないようですね。

    ただ、効き目のある範囲がとても狭く、すぐに中毒しやすい薬ではあります。リチウム中毒で調べていただくとたくさん解説があります。

    以上のことについて、ご存知でしたらすみません。
    双極性障害になる前からNirvanaが好きで、またリチウムを服用していることから気になってコメントしてしまいました。
    乱文失礼いたしました。

    • deni より:

      くまさん ようこそ

      ご丁寧に実体験に基づくお話をお教え下さりありがとうございました。
      ご案内の通り調べてみると「リチウムは過半数で適切な監視がなされていない」なんて物騒な記述があったりしました。これが中毒しやすいという事に繫がるのでしょうか。
      またお気づきの点がありましたら教えてやって下さい。

    • deni より:

      あ、くまさん、ご指摘の主眼は酩酊の部分だったのに、的を得ぬ返信をしてしまい申し訳ありません。
      読み返すに、気分安定薬とオピオイド系のものにまるで似た作用があるかの記述だったので削除しました。
      改めまして貴重なご指摘に感謝申し上げます。