79年発表の第2作アルバム Reggatta de Blanc のB面開始曲。
同アルバムの Message In A Bottle に次ぐ、2曲目の英1位ヒットシングル。
Walking On The Moon
(Sting)
(G7sus4)
Bb C
Walking on the moon
I hope my legs don’t break
Walking on the moon
We could walk forever
Walking on the moon
We could live[be] together
Walking on, walking on the moon
月面歩行では
足が折れなきゃいいけど
月面で
俺達ずっと歩いて行ける気がする
月の上なら
俺達いっしょにやっていけそう
月の上を歩く様に
(G7sus4)
Walking on the moon
Walking back from your house
Walking on the moon
Feet they hardly touch the ground
Walking on the moon
My feet don’t hardly make no sound
Walking on, walking on the moon
Dm7
軽やかに
帰り道も
まるで月の上
地面に着いてないみたい
足取りも軽い軽い
足音もほとんどしない
まるで月面歩行
C Gm
I’m wishing my days away
No way
And if it’s the price I pay
Some say
Tomorrow’s another day
You stay
C
I may as well play
見ないで毎日夢ばっか見てるってね
とんでもない、でもそんな皮肉を
受けなきゃいけないとしても
明日は明日の風が吹く
なんて言う人だっているんだよ
君がいてくれるなら
遊んでいたいな
(G7sus4)
→(verse 1)(bridge)
(G7sus4)
Keep it up, keep it up…
このままがいいんだ
アップライトベースだとノリにくいのか、ビデオではスティングもストラトを提げている。
ホテルのベッドでこのリフが浮かび、起き上がって部屋を歩き回りながら節と詞を考えたから Walking Round the Room という仮題だったが、このバカらしいのをもっとアホらしくしようと、Walking On the Moon に改めた。
曲の創作についてのスティングの弁。
If you’ve got the right riff, the song can just write itself. That’s what happened with ‘Walking on the Moon’. I wish I could find another one of those every day: a simple, easy, three-note or four-note riff. The whole song is based around its cadence, and I’m very proud of that.
Revolver, 3/00
着想はベースリフに始まった。いいリフが浮かべば、後は自然に曲が出来上がる。歌の大元は韻律で、その事を誇りに思う。
以上が大意。つまり本作は曲先どころかリフ先。
彼が proud だと言うのは、こねくり回して仕上げたものではない所だろう。
ふと浮かんだリフの cadence(韻律、リズム)こそが、詞をも含む歌の全ての源泉。
別の所ではこのリフを weird jazzy bassline (ヘンなジャズっぽいベースライン)などと言っている。
これは、謙遜や韜晦もあろうが、きっと本心だろう。
つまり、どんなちっぽけな思い付きやきっかけにも潜在的な意味(significance)を認め、それを尊重しながら歌を形作っていく、という自身の創作過程を打ち明けているのです。
こんな事を聞かされると、私にはどうしても思い出してしまう事がある。
それはテレビで耳にした作詞家松本隆の発言。
こっからはしばらく悪態をつくので、ンなモン聞きたかねーヨって方は読み飛ばして下さい。
(悪態はじめ)
佐野元春がホストの番組で、松本はこんな事を言っていた。
作曲家は作詞家の書いた歌詞に即した曲を付けられなきゃダメだ、と。
その逆の事、つまり作詞家も曲に即した歌詞を当てられなきゃダメだ、と言葉を継いでいたなら、私はきっと、成る程、双方のスキルの話をしてるんだな、と納得していた筈。
しかし実際は、私の記憶が正しければ、前者のみで、作詞と作曲に主従を認めるかの発言だった。
さて、一体、心に去来するもの全てを言葉で表せるのだろうか。
機微を細叙し、それを以って不足なく他者に伝える事が出来るのか。
もしそんな人がこの世に一人でもいたら、その時点で言語は完成されたものになっている。文学の使命も終わっている。
彼は自身の言葉が万能だと勘違いしている、か、少なくともそう取られても仕方の無い発言をした。
他の手段(= 曲、即ち、音の高低長短強弱)を以って事象や思いの機微を伝えようとする事は副次的で、せいぜい補完的な作業に過ぎないと思っているのだろう。
実際には相互補完的(ま、完全もあり得ないだろうが)。
音楽の強大な力を自らも借りている事に気付かれよ。 (悪態おわり)
閑話休題。
スティングのベースリフには、次にアンディサマーズによる mind‐blowing なコードが付いた。
G7sus4 で合ってると思うけど、コーラスとディレイの具合で何か違う音が入ってる様にも感じる。
(A Hard Day’s Night のド頭のジャーンと全く同じコードとはちょっと思えない)
そんなエフェクトも影響してか、発散的な音色の、白玉以上の長音が、低重力下の giant steps の浮遊を感じさせる。
スティングの自伝によれば、歌詞は昔の恋人を思って書いたものらしい。
曰く、being in love is to be relieved of gravity
日本語でも、浮き浮きする、なんて言うけど、恋愛で重力からの解放感を覚えるのは人類共通なのか。
逐語解釈は不要でしょう。2点だけ熟語の意味を確認しておきます。
wish away は、何も気にせぬ素振りをする、または、現実逃避をして何かに夢中になる、の意。
ここでは後者。my days という目的語を取っているので、恋人に日々うつつを抜かしている、という事。
そしてそれを周りの人に皮肉られているのです。
the price I pay は、払うべき対価。そんな皮肉や冷やかしにも耐えなきゃならないという事。
強大な重力をも相殺し得るエネルギーを持つ恋愛感情だけに、そのベクトルがちょっとズレりゃ Every Breath You Take に描かれる様な偏執性をも生み出しかねないって事ですね。
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