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歌詞和訳 Billy Joel – The Stranger コード

1970s

77年発表の第5作アルバムの表題曲。
シングル発表は日本でのみ。そのせいか特に日本で人気が高い。

The Stranger

(Billy Joel)

    Em
Well we all have a face
    Am     Em
That we hide away forever
    Am       C
And we take them out and show ourselves
   D        B7
When everyone has gone
     Em
Some are satin, some are steel
     Am       Em
Some are silk and some are leather
      Am     D
They’re the faces of the stranger
   Bm       Em
But we love to try them on
そう 人は皆
誰にも一生見せない一面を持つもの
そして誰もいなくなると
その仮面を取り出し自分に見せる
サテンの様に柔らかいのもあれば
鋼の様なのもある
シルクもあれば革製もある
それは他人が知らない仮面だが
皆それを顔に当ててみたがる

Well we all fall in love
But we disregard the danger
Though we share so many secrets
There are some we never tell
Why were you so surprised
That you never saw the stranger?
Did you ever let your lover
See the stranger in yourself?
そう 人は皆 恋に落ちるもの
でも危険をかえりみたりしない
たくさん秘密を共有はしても
絶対教えない事だってある
そんな仮面は見たこと無いからって
なぜそんなに驚いたんだい?
じゃあ自分は恋人にそんな一面を
見せた事があるのかい?

Bm     Bb     Bm7
 Don’t be afraid to try again
 D7      Bm
 Everyone goes south
 Bb      Bm7 G D7
 Every now and then, ooh ooh
Bm       Bb        Bm7
 You’ve done it, why can’t someone else?
 D7         Bm
 You should know by now
 Bb         Bm7 B7
 You’ve been there yourself
恐れないでまたやってごらんなさい
誰にだって人目をはばかる事は
時にはあるもの
あなたがそれをやった事あるなら
他の誰かだって同じ事
もう分かったっていい頃よ
あなたは自分からそれをやったのだから

Once I used to believe
I was such a great romancer
Then I came home to a woman
That I could not recognize
When I pressed her for a reason
She refused to even answer
It was then I felt the stranger
Kick me right between the eyes
俺はかつて自分がすごい
ロマンチシストだと思って疑わなかった
それである時 女の元に帰宅すると
いつもと全く様子が違ったんだ
だからどういう事か問い詰めたけど
彼女は答えようとすらしなかった
見知らぬ仮面に一撃を喰らったと俺が
感じたのはまさにその時だった

→(verse 2, chorus)

You may never understand
How the stranger is inspired
But he isn’t always evil
And he is not always wrong
Though you drown in good intentions
You will never quench the fire
You’ll give in to your desire
When the stranger comes along
仮面がどうやって自身の中に
生まれるかなんて知りようもない事
でもその仮面は必ずしも邪悪でもないし
正しくないなんて事もない
良心に浸っていようと
欲望の炎は決して消えない
仮面が離れる事はなく
己のその欲望に屈してしまうのがオチ

本作中の stranger に対し固定的な訳語を当てると不自然な場合が生じる。
更には、a stranger だったら「見知らぬ人」でだいたい通るが、the stranger と勿体(定冠詞)が付いており暗示的なので、対訳に際しては機に応じて仮面とやったり一面とやったりしています。

第1バースは、誰もが他人には見せない一面を持っているという事実の導入。
第2バースでは、近しい恋人にすらその一面を見せない事を指摘。
ブリッジの様なサビで女声に交代。
これは語り手が代わったと解釈すべきで、仮面の告白か。
循環コード進行が啓示的な響きを醸している。
(GM7 Gm7 D D7 でもいけそう)

we take them out and show ourselves
我々自身 show するのではなく、(仮面を)我々自身 show する。
つまり、自分でまじまじと眺める。まさにジャケ写の様に。

そして第3バースで主語が I に代わり、一般論から個人的な体験の告白へ。
とは言え随分と曖昧で婉曲な自分語り。
「誰だか分からぬ女の元に帰った」とは勿論文字通りでもなければSF的な表現というわけでもない。
第2バースからの流れで、この女は I の恋人で、彼女が普段見せぬ一面を見せた、と解釈すべきだろう。
続く二人の間の質疑と非応答も文字通りでなく、最後の第4バースの「消せぬ炎」や「欲望」から察するに、男女の行為の応酬を、これまた随分と持って回った表現で伝えようとしたと察する。
フェティシズムを含むか否かは分からないが、性的嗜好に(暗に)言及し、初めて触れた恋人の一側面に大きなショックを受けた自身の体験を開陳している。

第1バースの仮面は例えば身体的コンプレックスなども含んでいるかも知れないが、第2で異性が登場し、第3では仮面は更に狭義になって個々人の嗜好を指す、というマクロからミクロへの誘導。

ここでブリッジサビに戻ります。
歌い手も代わり、循環するコード進行が何だか天啓が降りた様な雰囲気を醸す。
go south は、相場の世界では値が下がる事を表す言い回しだが、ここでは escape と同義か。つまり、仮面を隠す行為。
ところがこの天の声は、仮面をさらしてみなさいと告げ、固定的な規範意識に囚われた者を解放してやろうとするかの様。
最終行の there は south を指すかとも思ったが、
You’ve been there = You’ve done it 「それをやった」、つまり仮面をさらした、と見なせそうです。

ユング Psychology and Religion (1938)「心理学と宗教」

Unfortunately there can be no doubt that man is, on the whole, less good than he imagines himself or wants to be. Everyone carries a shadow, and the less it is embodied in the individual’s conscious life, the blacker and denser it is. If an inferiority is conscious, one always has a chance to correct it. Furthermore, it is constantly in contact with other interests, so that it is continually subjected to modifications. But if it is repressed and isolated from consciousness, it never gets corrected.

不運にも、総じて人間は自分が想像したりそうありたいと思う姿より優れてなどいない事に疑問の余地は無い。誰にも影が付いて回るもので、意識下に具体化されなければそれだけ影は黒く濃くなる。劣等感は、それが意識されるならば、矯正の機会はある。更には絶えず他の関心事に触れる事で頻繁に改変に付される。しかし抑圧されて意識から離されれば、劣等感が矯正される事は決して無い。

追えば逃げられる様な、何とも歯痒い現実。
Billy Joel の言う stranger は、ユングの言う shadow に対応するだろうか。
付いて回る影 = 他人に見せぬ奇異な側面

それで彼は、自身に言い聞かせる様に、天の声に語らせる。
一旦視点をミクロにしたものの、結論としては本作は、自身の奇異な側面(仮面)も意識的無意識的に隠しているだけだから他人の奇異な一面に触れても驚く無かれと多様性の甘受を説き、同時に自身の解放をも謳っているのだろう。

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