1972年発表のデビューアルバム Can’t Buy a Thrill の開始曲。73年に米6位となるヒットシングル。
Do It Again
(Walter Becker, Donald Fagen)
Gm7 Cm7 Dm7 EbM7 Dm7
Gm7
D7#9
Gm7
For the man who stole your water
And you fire till he is done in
But they catch you at the border
And the mourners are all singin’
As they drag you by your feet
But the hangman isn’t hangin’
And they put you on the street
撃ち殺しに出かける
そいつが死ぬまでブッ放つが
国境でパクられる
足を持って引き回される間
弔い人はみな歌っている
それでも死刑が執行される事はなく
市中にさらされる
Gm7
Wheel turnin’ ‘round and ‘round
Cm7 Dm7 EbM7 Dm7
You go back, Jack, do it again
グルグル回るホイール
もう一度だ、ジャック
Then you find your only friend
In a room with your two timer
And you’re sure you’re near the end
Then you love a little wild one
And she brings you only sorrow
All the time you know she’s smilin’
You’ll be on your knees tomorrow
その子が唯一の恋人だと思ってしまう
一緒に部屋にいるのが浮気者なら
潮時が近いと予感する
可愛いわがまま女を好きになれば
後で悲しい目に遭うだけ
いつも微笑みかけてくれる子の前に
明日にはひざまずいているだろう
→(chorus)(interlude)
Gm7
That you’re not a gamblin’ man
Then you find you’re back in Vegas
With a handle in your hand
Your black cards can make you money
So you hide them when you’re able
In the land of milk and honey
You must put them on the table
許しを請う
でも気付くとベガスに逆戻りして
ハンドルを握っている
黒のカードは金をもたらすから
いざという時まで隠し持つ
富の国ではテーブルの上に
カードを出さなくてはいけない
→(chorus)
Gm7
叙事的に淡々と話が進行する。時制は殆どが現在形。
そのせいか訳出すると何だか据わりが悪い。
go gunning = 銃猟に行く
done in < do in = 殺す
fire = 発砲する
名詞の意(砲火、射撃)もある。
例) Commence[Cease] fire! = 撃ち方始め[やめ]!(軍隊の号令)
で、これがまた名詞になり、ceasefire = 停戦、休戦
mourner = 哀悼者、会葬者 < mourn = 弔う
hangman = 絞首刑執行人
two timer = 浮気者、裏切り者
kick = kick the habit = 習慣を絶つ ここではギャンブルをやめる、の意
milk and honey = 富、豊かさ
過ちを繰り返す人間の悲しい性(さが)。
第2、第3バースはそんな解釈が当てはまりそう。
すると人称代名詞は訳出しない方が自然だと判断した。
Jack が登場するのも、それがありきたりの名前で、人間全般について叙するに適しているからだろう。
(ついでに言えば back との押韻の便宜上。こっちが後付けかも知れないが)
ただ、第1バースが分かり難い。
尤も言語自体は明瞭なので情景は浮かぶ。以下の如し。
水を盗んだ男を撃ち殺したから捕まり、その男に近いと思しき弔い人達が歌う中、市中引き回しにはされるが死刑にはならず。You go back, Jack…
… んー、だから何?
そもそも水って何?第2、第3バースがそれぞれ女、ギャンブルに纏わる描写だから、「飲む打つ買う」の残りの酒を表すのだろうか。
因に英語だと wine, woman, and dice と言う(順番違うけど)… あ、この詞の登場順と一緒じゃあーりませんか。
こっちでは「三道楽」とアマい呼び方をするが、あっちでは、the three vices = 三つの非行、と見なされるらしい。
で、刑が執行されないのは人が人を裁く事の限界を暗に伝えているのか。
そしてちゃんと裁かれないからこそまた過ちを繰り返す。(ホイールがグルグルと回るが如く)
繰り返す世の常を歌っているのだから過去も未来も時制もヘッタクレも無く、淡々とした現在形の記述はそんな事実をとうとうと、そして堂々と明け透けに語るのに適している、という事か(←韻を踏んでみました)。
すると対訳の据わりの悪さは俄然霧消し、納得がいく。
そーならない為にはこーしろあーしろといった分別臭い教訓も出て来なければ是も非も語らない。
バースの伴奏コードも Gm 一発で淡白っちゃ淡白だ。
サビに出て来る表題の do it again とその前の go back は命令形と断じて訳出しているが、これらもひょっとしたら you を主語とする現在形の平叙文なのかも知れない。
曰く、ジャック(人間)よ、お前はただ同じ事を繰り返す。ホイールグルグル輪廻(そして勿論この是非には触れない)。
尚更不気味な詞になりはするが、東洋的な業を説いている様で、面白い解釈ではある(手前味噌)。
they catch you の they については、これも訳出はしていないが、警察等の当局者を指すのだろう。border で捕まっているので、国境警備隊かも知れない。
they drag you の they が the mourners を指すなら、市中引き回しは私刑という事になり、すると先の they も当局者(国家権力)ではなく、殺された者の近親者(つまりは the mourners)となるかも知れない。
the hangman isn’t hangin’
体裁は現在進行形だが、近未来(の予定)を表している。
つまり絞首刑は免れたのです。
ハングマンがハングしないのだから撞着表現の一種。
(で、この執行人も民間人か)
they put you on the street
さらし者にされたとも取れるし、釈放されたとも取れる。
wheel は、例えば第3バースのギャンブルの件ではルーレットやらスロットマシンをも暗示しているだろうから、対訳には(漠然と)ホイールと音訳している 。
で、handle in your hand
Jack は今度は black cards のブラックジャックにも掛かってくる。
Your black cards can make you money
発音について気になった事。
back, Jack と、アクセントのある a を含む他の単語の母音の発音が明らかに違う。
前者は日本語のバック、ジャックに近い。
ウエストコーストでは k の前だとこうなるのか(ただ、black はどっちともつかないビミョーな音に聞こえる)。
でも調べたらドナルドフェイゲンの生まれはニュージャージー(東海岸)だった…
それから、singin’ は明らかにサインギンと歌っているが、これは力んだだけか。
作詞者は恐らくそのフェイゲンだが、彼は詞については全く語らない。
同じウエストコーストのイーグルスなどの歌もよく解釈論争を起こすが、彼らも詞の真意を訊かれてもはっきりとは答えない。
かの地では歌詞を ambiguous(両義、曖昧)にするのが流行ったのか。
寓意を見出そうと躍起になるリスナーを見下ろしてニヤニヤしているのなら随分悪趣味だが、意味を宙ぶらりんにしておいた方が確かに話題にはなる(実際、発表から何十年も経った今でさえ、まんまと真意の詮索に執心しとるアホが一人ここにおる)。
作詞が戦略的だと言われても、彼らも否定は出来ないだろう。
さて、歌前のブレイクのコードは D7#9(実はハッキリ鳴ってはいないが)。
Hendrix chord (ジミヘンコード)と呼ばれる、メジャーとマイナーの構成音を同時に持つ ambiguous な和音。
フェイゲンに対し「ごまかしてないで、詞の意味をハッキリ教えろよ」と言う事は、ジミヘンに対して「メジャーかマイナー、どっちかハッキリした音を出せよ」と言う事と同じくらいに意味が無い事なのだろう。
Baho 版
本作を取り上げるに至ったのは、実は石やんの訃報(7月8日、享年62)に接しこの彼らのカバーを思い出したから。
原版の方のシタールも良いが、こっちのギターも良い。
ブレイクの D7#9 の所で Gm のまま9度を足し、4拍おいて E7#9 を歌に被せて鳴らしているのがイカしてる(これ、石やん)。
それから、Char の th の発音だけが妙に日本人的なのが逆にカッコいい(でも back, Jack は、バック、ジャックじゃない)。
マシンのドラムは無機的なのになぜかやたらとハマっている。本作の性質に合っているのかも知れない。
コメント