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He did it his way, then again he will.

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加山雄三の武道館コンサートをテレビで見た。たまげた。
喜寿にしてあれだけの歌唱演奏が出来るなんて!
たまに低い方がちょっとだけ出にくいかなって印象はあったが、そんなモン補って余りある高い音の伸びときれいで自然なビブラート。
そもそも「君といつまでも」にしても「My Way」にしてもその音域は2オクターブ近い。
ピアノの弾き語りもとにかく流麗。
アンコールに花束を持ってサプライズ出演した桑田佳祐が、「77?うそでしょ?」と言っていたが、きっとそれはお世辞でも何でもないのだろう。舞台袖か楽屋で公演を聴きながら、同様に舞台に立つ20近くも年下の歌手として実感した本心の吐露に違い無い。
年寄りだからこれ位で勘弁してくれという様な甘えも微塵も無いが、かと言って、この年でこんなに頑張ってんだぜなんていう押し付けがましい気負いも無い。きっとただ好きだからやってて自分は楽しい、そんでそれを見た人が楽しけりゃなによりってなスタンスなんだろう。どんな境地なんだろうか。不覚にも(?)すっかり引き込まれてしまった。音楽を聴いて、況してや知ってる曲も多い中、こんなに心を動かされたというか乱されたのは随分久しぶりな気がする。
歯の浮く様なセリフの古い歌を歌う男前のオジサン… 位にしか思ってなかったのに、まさか自分がオッサンになってジイサンのコンサートを見て心を奪われるとは思わなんだ!

日本初のシンガーソングライターなんて言われるだけあって、弾厚作の筆名による自作曲がほとんどで、中には詞曲共に自作の歌もあった。
そんな中、アンコール前に「一番好きな曲」と紹介して歌い出したのが My Way。
これは、ポールアンカが既存の曲に詞を当ててシナトラに歌わせた歌。
(詳しくはこちらをご参照あれ)
自身の人生を総括して、自分のやり方(my way)に悔い無しと高らかに歌う、私が大っ嫌いな大袈裟自惚れソング。

しかし何という事でしょう!
加山が歌う My Way に、これまた不覚にも聴き入ってしまったではありませんか。
スイスイズンズンと胸に歌が入り込んで来る。嗚呼、あなたがそう歌うのならきっとそうなんだろう。私の心の天邪鬼の門がスーっと開かれる。心が洗われるなんて言い回しは使いたかないけど、何かヘンなつっかえ棒がスコ-ンと外された様な、カタルシスの様な、ここんトコ滅多に無い体験。

元祖シナトラは晩年、この歌が自身の成功などをひけらかす様に思え、歌うのを憚ったそうな。
しかし加山にはそんな分別臭い逡巡なぞ全く無い。好きだからこそ衒いも無く高らかに歌う。人生もこの歌の通り体現して来た。完全に詞も曲も自分のモノにしている。
これはもうシナトラのものでもなけりゃアンカのものでもない。
古今東西この歌の一番の歌い手は断じて加山雄三だ!

元祖シナトラ

最後をシメる自身の新曲の前にしみじみと、しかしやはり気負いもなくいささか淡々と語り出す。それにしても、全く息も切れてなどいない。それだけでもただ感服だってのに、更に驚かされるハメに。
だって喜寿の老翁があろう事か「将来の夢」なんて言葉を口にするんだもの。そんな言葉を使っていいのは学生までなんじゃないの?
で、何を言い出すかと思えば、なんと80になったら自作の船で七つの海を征服しに出航するんだそうな… もう参りました。

あれ位の年なら、My Way で来し方を振り返って大喝采大団円、はい幕引き、が関の山。
まさか行く末までも語って歌っちゃうなんて。過去を顧みるだけじゃ終わらんかった。
何か知らんけど、私が間違っておりました。

熱唱の後、赤のモズライトをスタッフに渡し、舞台を去る。
楽屋までの道中、ボソリと呟く。
「なんだ終わっちゃったか、まだやりたかったなあ」
これ、マジっすよ。しかも汗ひとつかいていない。強がりでも何でもない。本心。
桑田じゃないが「うそでしょ?」
いいモン見せてもらいました。加山サン、ありがとう!

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