日本でもその一味が強盗を働いた窃盗団ピンクパンサーを題材にした欧州のTVドラマ The Last Panthers の主題歌。
2013年のボウイの誕生日に突如発表された第24作 The Next Day から丸3年、第25作の新アルバム Blackstar が同じく彼の69歳の誕生日の2016年1月8日に発表の運び。本作はその表題曲にして既発の先行シングル。
Blackstar
(David Bowie)
Stands a solitary candle, ah-ah, ah-ah
In the centre of it all, in the centre of it all
Your eyes
ひっそりと立つ一本の蝋燭
その真ん真ん中に
君の瞳
Only women kneel and smile, ah-ah, ah-ah
At the centre of it all, at the centre of it all
Your eyes, your eyes
Ah-ah-ah
Ah-ah-ah
跪き微笑むのは女達だけ
その中心には
君の瞳
Stands a solitary candle, ah-ah, ah-ah
At the centre of it all, at the centre of it all
Your eyes, your eyes
Ah-ah-ah
ひっそりと立つ一本の蝋燭
その真ん真ん中に
君の瞳
Spirit rose a metre and stepped aside
Somebody else took his place, and bravely cried
(I’m a blackstar, I’m a blackstar)
霊魂が1メートル立ち上がりその身を引くと
別の者が彼に取って代わり、勇ましく叫んだ
(我こそはブラックスターなり)
How many people lie instead of talking tall?
He trod on sacred ground, he cried loud into the crowd
(I’m a blackstar, I’m a blackstar, I’m not a gangstar)
どれだけの者が堂々と語る事をせず嘘をつくのか?
彼は聖地に足を踏み入れ、群衆に向けて大声で叫んだ
(我はブラックスター、ギャングスターに非ず)
Just go with me (I’m not a filmstar)
I’m-a take you home (I’m a blackstar)
Take your passport and shoes (I’m not a popstar)
And your sedatives, boo (I’m a blackstar)
You’re a flash in the pan (I’m not a marvel star)
I’m the Great I Am (I’m a blackstar)
共に行くがいい(映画スターに非ず)
故郷に連れ帰ってやろう(我はブラックスター)
パスポートを持って靴を履きなさい(ポップスターに非ず)
それと薬も、わっ(我はブラックスター)
汝は刹那の石火(驚異のスターに非ず)
我は偉大なる主(我はブラックスター)
I see right, so wide, so open-hearted pain
I want eagles in my daydreams, diamonds in my eyes
(I’m a blackstar, I’m a blackstar)
まさしく広く、闊達ゆえの苦悩を見通す
空想に鷲を求め、現実にダイヤを欲する
(我はブラックスター、我はブラックスター)
Spirit rose a metre and stepped aside
Somebody else took his place, and bravely cried
(I’m a blackstar, I’m a star’s star, I’m a blackstar)
霊魂が1メートル立ち上がりその身を引くと
別の者が彼に取って代わり、勇ましく叫んだ
(我はブラックスター、スターの中のスター)
But I can tell you how (I’m not a flam star)
We were born upside-down (I’m a star’s star)
Born the wrong way round (I’m not a white star)
(I’m a blackstar, I’m not a gangstar
I’m a blackstar, I’m a blackstar
I’m not a pornstar, I’m not a wandering star
I’m a blackstar, I’m a blackstar)
経緯は教えてやろう(ペテン師に非ず)
我々は逆さに生まれてきた(我はスターの中のスター)
あべこべに生まれたのだ(ホワイトスターに非ず)
(我はブラックスター、ギャングスターに非ず
我はブラックスター、我はブラックスター
ポルノスターに非ず、さまよえるスターに非ず
我はブラックスター、我はブラックスター)
Ah-ah, ah-ah
At the centre of it all, your eyes
On the day of execution, only women kneel and smile
Ah-ah, ah-ah
At the centre of it all, your eyes, your eyes
Ah-ah-ah
その中心には君の瞳
決行の日、跪き微笑むのは女達だけ
その中心には君の瞳
Ormen はノルウェー語で、蛇、の意。
我々はオーメンと聞くと映画のを想起するが、それは omen(前兆)で、別語。
とは言えその「蛇の家」の何たるかはよく分からない。
と、この部分のみが不明かの言い様、でも実際は全体の文脈も茫洋。
(あ、何か日本のインチキラッパーみたいな言い方になってもーた)
本作はISISについて書いたものと作者ボウイ本人が言った…
と、新アルバム録音に参加したサックス奏者が語っているそうな。
真偽の程は無論知り得ぬが、ビデオでの視覚描写や詞にそれを思わせる表現が散見するのも事実ではある。
例えば、
the day of execution 決行の日
これなどはテロ実行の当日を思わせ、その上で主人公(と思しき者)に「我はギャングスターに非ず」などと正義を叫ばせている様に聞こえる。
(本来ギャングは gangster と綴るが、blackstar に準えて gangstar としているのだろう。作者自書による正規の表記かはこれまた知り得ぬが)
ただ、angel や the Great I Am などという言葉を登場させている事から、キリスト教に言及しているのも間違い無かろう。
死んだ者の正義を担保すべく残った者が遺志を継ぎ高らかに叫ぶ件は、キリストのみならぬ種々の宗教の生成の端緒を説明している様でもある。
また、次のラインは、国鳥に白頭鷲を頂く米国を想起させる。
I want eagles in my daydreams, diamonds in my eyes
空想(my daydreams)の上では鷲を、現実(my eyes)にはダイヤを欲する
言い換えれば、
大義(eagles)を掲げながら実際には富(diamonds)を求める
となるだろうか。
この解釈が正しければ、アメリカ的治世への言及(更には皮肉)となろう。
財産を象徴するクリシェではあれ diamonds という言葉を使っているのはピンクパンサーに因んでの事か。彼ら窃盗団の獲物(game)は主に宝石類だから。
当のTVドラマについては何も知らぬが、ピンクパンサー構成員の多くが旧ユーゴ難民という事実に鑑みれば、社会通念上は悪事たる彼らの窃盗行為の裏にも理は厳然とある、といった義賊めかした描き方なのだろうか。
宿命を客観視するかの如きこのライン
Born the wrong way round あべこべに生まれた
と関連付けて考える事も出来そうではある。
… という見方も早計にして多分にセンチメンタルなだけの判官贔屓かも知れず。
国際窃盗団の更なる背景に目を遣れば、彼らは実行部隊に過ぎず、その裏で糸を引く犯罪シンジケートの存在が浮かび上がる。
そしてその中で有力視されるのが旧ソ連系マフィア。
となると正教会というこれまた宗教の絆だか徒党根性だかを想像してしまう。
ん?彼ら実行部隊が利用されていると考えれば余計に悲劇のヒーローみたいに見えてくる。するとそのイメージをまたシンジケートが上手く利用…
キリが無いんでもうヤメときます。
ボウイが世事を注視しているのは間違い無かろうが、そも彼に、指針を世に示そうなどいう不遜な気は無く、表現者演技者としての本分を粛々と全うすべく、現象のありのままを彼の言葉で本作に綴っているだけなのかも知れない。この詞に、皮肉はあったとしても、事の是非を断ずる言葉は見当たらない。
これはボウイがレノンの「失敗」を見てきているから、などと私は邪推している。
最近の失敗と私が感じた例を紹介。
レッチリのベーシスト Flea による11月26日のツイート Flea @flea333
The native Americans were slaughtered, raped, and robbed by the weird, lying invaders who showed up in ships one day.
ネイティブアメリカンはある日、船で現れた奇妙な嘘つき侵略者によって虐殺され、強姦され、そして強奪された。
その3時間後のツイート
I’m aware that thanksgiving is about being thankful for bonds with people. I am very thankful. we still murdered the Indians in my thoughts.
サンクスギビング(デー)が人との絆に感謝する日である事は分かっている。私も感謝で一杯だ。でも私の考えでは我々はやはりインディアンを殺した(という過去を持つ)のだ。
後者は後に本人により削除されている。
その後のツイートに、誤解曲解した(と思しき)人との応酬があるから、それに鑑みた結果だろうと察する。
残念ながらこのツイートは恐らく本人の意図した本質的な議論のきっかけにはならなかった。更には投稿の削除はあたかも失言を撤回した恰好になってしまった。
ただやはりその叙述が少なくとも結果的にはある意味において不用意であったのは事実だと言わざるを得ない。勿論本人にとっては不本意な面が多かろう。
しかし、表現する事とそれが発信者の意図通り受信者に伝わる事は全く別次元。
いかに周到に用意したつもりでもそれすら不用意に帰する事はいくらでも起こり得る。
況してやツイッターでは文字数が限られている。
一方、セレブリティによる似非博愛主義的ポーズの憾みはあれど、史実を受け入れ心に留め置くよう喚起する事の意義は依然と大きかろう。だから個人的にはフリーにエールを送りたい。
って本人には届かんだろうけど(これも発信者と受信者の間の齟齬の一種?)。
コロンブスが新大陸を発見したのではなく、先住のネイティブアメリカンが彼の乗った船を発見しただけ。
これは米国を始め主に西側の国の歴史教育において何百年も無視され続ける旧大陸側の論理。
フリーはそんな蒙を啓かんとツイートしたのだろう。みんな!正史が全てじゃないんだぜ!とばかりに。
ボウイが China Girl の詞中にマイノリティへの積極的にして多大な理解があったマーロンブランドを登場させたのも、そんな(客観的な)史実に目を向けさせる為だったのだろう(ただ作詞者はイギーか、或は共作かも)。
さて、当のボウイも公式サイトやFBのアカウントを持ってはいる。
が、本人の発言が掲載される事は殆ど無い。
これらは要はボウイという商品を扱う、スタッフによる運営。
恐らく彼は近年は、音楽や作品に関するインタビューすら受けていない。
私の知る限り、公への意思表明はスコットランドの独立可否の時が最後。
発言にせよ歌にせよ、下手な具体的な言及は要らぬ摩擦を引き起こし、またそんな所にさえニュース価値を見いだそうと汲々たるメディアや個人に恣意的に利用されるだけだと悟っている、か、諦めている、に違い無い。
それこそポーズだなんて思われたら致命的だし(勿論本人だって逆に上手く利用してもいるのだが)。
レノン同様、故郷英国を離れNYを終の棲家にしているが、彼の様にFBIの監視を受けるなんてヘマは、抜け目のないボウイにはあり得ない(ま、時代も違うが)。
ISISだのキリストだのと書いてきたけど、white star がロックスターを指すとするなら、blackstar が指すのは詰まる所、カルトヒーローたるボウイ自身なのかも知れず…
本作のビデオを見た後に、30年前に書かれた Loving The Alien の詞にも目を通してみて下さい。
彼の右目は千里眼、左目は光を遮断する事の無い慧眼(かも)。
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