1970年発表のデビュースタジオアルバム John Lennon/Plastic Ono Band (ジョンの魂)所収。
Working Class Hero
(John Lennon)
Am
Am G Am
As soon as you’re born they make you feel small
G Am
By giving you no time instead of it all
G Am
Till the pain is so big you feel nothing at all
Am G Am
A working class hero is something to be
Am G D Am
A working class hero is something to be
自分がちっぽけな存在だと思い込むより仕方なく
生まれたらすぐ卑屈にさせられてしまう
あまりの苦痛で全く何も感じなくなるまで
労働者階級の英雄になるってのはちょっとしたモンだろ
They hurt you at home and they hit you at school
They hate you if you’re clever and they despise a fool
Till you’re so fucking crazy you can’t follow their rules
A working class hero is something to be
A working class hero is something to be
家では傷付き学校では殴られる
賢ければ生意気と言われ頭が悪ければ馬鹿にされる
気でも狂って決まりに従えなくなるまで
労働者階級の英雄になるってのはちょっとしたモンだろ
When they’ve tortured and scared you for twenty odd years
Then they expect you to pick a career
When you can’t really function you’re so full of fear
A working class hero is something to be
A working class hero is something to be
二十数年も苦しめられ怯えさせられたら
今度は職に就くよう求められる
ちゃんと働けなければもはや恐怖に苛まれてしまう
労働者階級の英雄になるってのはちょっとしたモンだろ
Keep you doped with religion and sex and T.V.
And you think you’re so clever and classless and free
But you’re still fucking peasants as far as I can see
A working class hero is something to be
A working class hero is something to be
宗教とセックスとテレビ浸けにされ
それでも自分は賢く、どこにも属さず自由だと思ってしまう
でも僕が見る限り、全く小作人のまんま
労働者階級の英雄になるってのはちょっとしたモンだろ
There’s room at the top they are telling you still
But first you must learn how to smile as you kill
If you want to be like the folks on the hill
A working class hero is something to be
A working class hero is something to be
もっといい生活が待ってると彼らはまだ平然と嘯く
でもまず笑みを浮かべたまま人をやっつける方法を学ばなきゃ
丘の上の住人みたいになりたいのならね
労働者階級の英雄になるってのはちょっとしたモンだろ
Am G Am
If you want to be a hero well just follow me
Am G D
If you want to be a hero well just follow me
Am Am
英雄になりたいなら僕に付いて来りゃいいのさ
伴奏は本人が弾くアコギ一本。
3番に入ると突然ギターの音の響き方が変わる。完全な継ぎ接ぎ。
2つの別のスタジオのテイクをくっ付けたとも言われる。
起伏の無い暗澹たるコード進行のギターをバックに、切々と語りかける様に歌う。
そして表題の文言を含むサビが何度も繰り返される。
A working class hero is something to be
この something は something good と解釈すべきだろう。
労働者の英雄になるのってカッコいいじゃないか…
とまあこんな感じだろうが、これはレノンが労働者に対して言わばポジティブに語りかけているものだと思っていた。鶏口牛後とばかりに。
しかし、バースに描かれる支配階級(= they)による洗脳の如き多くの無情な事例と終始陰鬱な曲調とに鑑みれば、やはりそれは誤りに思える。
最後のライン If you want to be a hero well just follow me も併せ、これらの話者はレノン本人でなく they であり、彼らはこんな悪魔の如き囁きで君らを手玉に取っているんだ、とレノンは労働者の蒙を啓かんとしているのだろう。詭弁なんぞで懐柔されるなと言うのです。
或はその「彼ら」に対する痛烈な当て付け(こっちが主か)。
コメント
この歌の歌詞の解釈をめぐっては諸説あるのだけども、私はジョンレノンによる社会批判だと解釈しています。
対訳を拝見すると例えば “twenty odd years” をちゃんと「二十数年」と訳している点については、20年と訳しているモノより正確だと言うことができるが、敢えて言うならば前置詞に “for” がついているので「二十数年間」と訳すべきで、1940年生まれのジョンレノンが1970年にこの歌を発表する数年前から書きためていたとすれば、二十数歳の彼本人のことだと解釈することができよう。
件の ” A working class hearo is something to be.” の訳し方については中高生レベルのグラマーの問題で “to be” はto不定詞が動詞を伴い「~するべき」という意味になり “to be” は「あるべき」 とか「なるべき」 と訳され、そして”something” は形容詞後置になるので “something to be” は 直訳すれば「あるべき何か」となり、日本語に置き換えれば「何とあるべきか」=「何たるべきか」と訳す “べき” ではないだろうか。むしろこのセンテンスのポイントは日本人があまり気にしない不定冠詞の “A” であり、これは不特定の物一般(普遍的事象)を表現する時に使う用法である点に留意する必要がある。日本語に訳すなら「労働階級の英雄というものは」となるので特定の誰かのことを言っているわけではない。つまり「労働階級の英雄とは何たるべきか」と彼は世間に問うているのである。
“they” については、無主語構文の典型であって “they” とか “it” は日本語にはない表現で、勿論特定の「彼ら」を指しているのではなく、敢えて主語を置くならば「世間」のことであり、日本語に翻訳する場合は受動態で表現することになる。
この詩は散文詩であるが、ジョンレノンはちゃんと韻を踏んでいる。最初フレーズでは ” small – all – all” 次は “school – fool – rules” と言った具合いである。この辺の「言葉遊び」を日本語に訳すのは難しいか。
また “There’s room at the top they are telling you still” 「まだ余地がある」と訳出すべきで、さらに “If you want to be like the folks on the hill” を「丘の上の住人みたいになりたいのなら」を深堀りすると、「丘の上」とは下町に対する山の手(有産階級)のことであり、この歌が作られたと思われる60年代後半に於いて日本は高度経済成長の真っただ中だったが、 “Japan as No.1” の1979年頃には「1億中産階級」と言う思い込みに扇動され、日本人は凄いんだと傲慢になっていったが、欧米ではイギリスの斜陽化(良く言えば成熟化)、アメリカではアメリカンドリームの死語化がこの頃すでに進行しており、そうした社会の成熟化、硬直化、傲慢性に対するメッセージ(警告)なのだ。ここで彼がわざわざ “like” を挟んでいるのはこのセンテンスを否定文にしてみるとわかりやすい。かつて福田(ジュニア)当時首相が記者団に向かって「私はあなたとは違うんです」との発言を ” I’m not like you” と訳すが如くである。
彼はこうした社会に対する注意喚起と、現状に満足し(させられ)驕っている世間に対して警告を発しているのである。
「二十数年も苦しめられ」と「二十数年間も苦しめられ」の違いが分からん…
それから、「労働階級の英雄とは何たるべきか」ってのが誤訳(てかトンデモ訳)である事はわざわざ本サイト読者諸賢にお伝えするまでもないとは思うが、まあ念の為…