1975年発表の第9作アルバムの表題曲。英18位、米28位を記録。
Young Americans
(David Bowie)
C Dm7 F G (x2)
Dm7
He lays her down – he frowns
F
“Gee my life’s a funny thing
G
Am I still too young?”
男が女を横たえ、顔をしかめる
「ああ俺の人生なんて皮肉なもんだ
まだまだ俺なんてひよっこだってのか」
She took his ring, took his babies
It took him minutes, took her nowhere
Heaven knows she’d have taken anything
彼女は指輪を受け取り、子供を授かった
数分の出来事で、全く感じもしなかったが
誰も知らない、彼女が何だって受け入れていただろうとは
C Dm7
Young American, young American, she wants the young American
F G
All right – but she wants the young American
若いアメリカ人、彼女が欲しいのはヤングアメリカン
そう、お望みはアメリカの若者
She finds the slinky vagabond
He coughs as he passes her Ford Mustang
Heaven forbid she’ll take anything
不審な輩が彼女の目に止まる
フォードマスタングとすれ違い様に咳をする男
ああまたしても彼女は何だって受け入れる気だ
Misses a step and cuts his hand
Showing nothing he swoops like a song
She cries “where have all papa’s heroes gone?”
足がもつれて手を切っても
何事も無かったかの様に風を切って襲いかかって来る
彼女は叫ぶ「パパのヒーローはみんなどこに行っちゃったの?」
Young American, young American, she wants the young American
All right – well she wants the young American
若いアメリカ人、彼女が欲しいのはヤングアメリカン
そう、お望みはアメリカの若者
Her breadwinner begs off the bathroom floor
“We live for just these twenty years
Do we have to die for the fifty more?”
彼女の主人はトイレの床で暇を乞う
「俺達20年ほど生きてきて
この先50年はずっと死んでなきゃいけないのか?」
Young American, young American, he wants the young American
All right – but he wants the young American
若いアメリカ人、彼が欲しいのはヤングアメリカン
そう、お望みはアメリカの若者
Am G F G (x2)
Am Em F
Do you remember the bills you have to pay
E
or even yesterday?
忘れてない?毎月の請求書の事
それどころか昨日の事でさえ
D Em F6 G A
Em7
Just you and your idol singing falsetto
G
‘Bout leather, leather everywhere
A
and not a myth left from the ghetto
誰彼アイドルもファルセットで歌うのは
革ジャンとかの事ばかりで
スラム街に残る神話の事じゃない
In the case, just in case of depression?
Sit on your hands on a bus of survivors
Blushing at all the Afro-Sheeners
剃刀を持っててくれない?
アフロヘアの黒人達みんなを見て恥ずかしげに
生き抜いた者達が乗るバスの中で傍観を決め込む
Well ain’t that poster love?
Well it ain’t that barbie doll
Her heart’s been broken just like you have
あのポスターみたいな?
そのバービー人形じゃなくて
彼女も失恋したのだった、人並に
D Em7
Young American, young American, you want the young American
G A
All right – you want the young American
若いアメリカ人、誰もが求めるのはヤングアメリカン
そう、君のお望みはアメリカの若者
A pimp’s got a Cadi and a lady got a Chrysler
Black’s got respect – white’s got his soul train
Mama got cramps and look at your hands ache
女衒が乗るのはキャデラック、ご婦人はクライスラー
黒人が勝ち得た尊敬、白人にはソウルトレイン
ママの腹痛、君の手にも痛みが
I got a suite and you got defeat
Is there a man who can say no more?
And ain’t there a woman I can sock on the jaw?
勝ち組に、負け組
もうウンザリだって言える奴はいる?
あごを殴れる女はいない?
Ain’t there a pen that will write before they die?
Ain’t you proud that you’ve still got faces?
Ain’t there one damn song that can make me break down and cry?
彼らが死ぬ前に記事を書く者はいない?
まだ顔が立ってるから得意になってない?
聴いたら泣き崩れてしまう様な歌がひとつくらい無いものか?
Young American, young American, I want the young American
All right – I want the young American, young American…
若いアメリカ人、私が欲しいのはヤングアメリカン
そう、お望みはアメリカの若者
1行目最後の語は davidbowie.com には fridge(< refrigerator = 冷蔵庫)と記載。
ところがそうではなく bridge(橋)だと言う者もいて、実際どっちにも聞こえはする。
そこで原盤以外の歌唱にも当たってみる。
これらの音源からは fridge と発声していると確認できる。よって fridge を採用、対訳を冷蔵庫とした。
ただ公演等で原盤と異なる詞で歌う事も間々あり、実際ここでも男女(he/she, man/woman)を入れ替えている所もあったりするので、断定はしかねる。
bridge だとするならば、登場する男女の行為が家の中でなく屋外(車中?)という事になろうか。
いずれにしても物語の導入としては唐突だという事に変わりは無い。
そしてキスに始まり指輪を took して赤ん坊も took したけど彼に took したのはほんの数分、彼女をどこにも took できず、それでも彼女は何だって taken してたのは神のみぞ知る…
トホホな男と奔放な女の性を take 尽くしで軽妙に描写、ボウイは天才か。この修辞の面白さとリズムを何とか対訳にも保存できぬものかと頭を捻ったが土台凡人には無理、トホホ。
さて、これが誰の言葉か想像して頂きたい。
At the end of World War II the economies of the major industrial nations of Europe and Asia were shattered. To help them get on their feet and to protect their freedom, the United States has provided over the past 25 years $143 billion in foreign aid. That was the right thing for us to do.
Today, largely with our help, they have regained their vitality. They have become our strong competitors, and we welcome their success. But now that other nations are economically strong, the time has come for them to bear their fair share of the burden of defending freedom around the world. The time has come for exchange rates to be set straight and for the major nations to compete as equals. There is no longer any need for the United States to compete with one hand tied behind her back.
“第二次大戦終結時、欧州とアジアの主要工業国の経済は壊滅していた。彼らが立ち直り、自由を守れるよう、アメリカは過去25年に亘り1430億ドルの対外援助を行ってきた。それは我々にとって正しい事だった。
今日、多くは我々の援助によって彼らは活気を取り戻した。彼らは我々の強力な競争相手になり、その成功を我々は歓迎している。しかし他の国々も経済的に強くなった今、世界の自由を守る為の重荷を彼らも公平に負うべき時が来た。為替レートを是正して主要国が対等に競争する時なのだ。片手を背中に縛られたまま競争する必要はもはやアメリカには無いのだ。”
これは先日の第45代大統領ドナルドトランプの声明…
… と言われても全く違和感の無い内容だが、本当はボウイが本作の詞中に登場させた第37代大統領リチャードニクソンによる71年(ボウイ暦の Hunky Dory 年)の演説からの抜粋。
(bear their fair share の4連続の韻がシビレる、余談)
ここでの Asia は殆ど日本を指して言っているのだろうがこれを中国に置き換えれば現職トランプの意向に合致するだろう。彼は公約通りグローバリズム至上主義に縛られていた片手もあっさりほどいた。
fair(公正、公平な)という語は彼のツイートにも頻出する[した]。主に Not fair!(不公平だ)という形でだが、これは小さな子供の典型的な口癖でもある。
ニクソンの言う silent majority (岸信介の「声なき声」のパクリ、私見)の支持を取り付けて選挙に勝ったという共通点もあるが、この二人の共和党大統領のもっと直接的で面白い因縁がこれ。
今から30年も前に、トランプが大統領選に出れば勝つと Mrs. Nixon つまりニクソンの妻が予言していると綴られているが、これは恐らくシャレで実際はニクソン本人によるトランプへの激励だろう。因にこの87年より前はトランプは民主党員だった(2001年から09年の間も)。
随分前置きが長くなったが、このリチャードニクソンが本作の中に、曲調が展開した後、唐突に登場する。
Do you remember your President Nixon?
ニクソン大統領を覚えてる?
導入にさんざん紙幅を使った割りに、そのニクソンを詞に持ち出したボウイの意図はよく分からない…
が、ウォーターゲート事件後再選を果たすも新たな証言でニクソンが史上初の任期途中の辞任を余儀なくされたのが74年8月9日で、それから間も無い8月11日に本作の録音(於米国フィラデルフィア)が行われた事実に鑑みれば、ホヤッホヤの大ニュースの主役をボウイが後付けで詞に入れ込んだというのが実情だと見てまず間違い無かろう。
元首の首が突如すげ替えられる様な、アメリカの目まぐるしい変化を暗示するラインだと取れはするが、とにかく話題性は抜群。
an un-American は、非米人。日本風に言えば非国民とでもなりそうな強烈に断定的断罪的な言葉。
マッカーシーの赤狩りで多くの米国人が非米人のレッテルを貼られた経緯がある。
だがごく最近ある歌手が公演先でこの言葉を口にした。
新大統領による入国禁止令を評して fundamentally un-American(根本的に非米的だ)と非難(この場合は形容詞)。
それはブルーススプリングスティーン。
彼我にきっちり線を引くこんな言い回しを国民的スターが使うのは国民の分断を象徴していると言えよう。
ただこの様な言葉を使う事が何かの解決になるだろうか。寧ろそれは両者を繋ぐものへの洞察を妨げ、想像力を鈍化させ、自己肯定のみを繰り返させる事で更なる分断を助長してしまう恐れがあるように思う。
愛国者による言葉での安易な線引きは結果として愛国者を自任する者同士の徒な衝突を招くだろう。
彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。
振り返って、また40年遡って、ここでこの言葉を使っているボウイの真意とは?
Have you been an un-American?
非米人だった事なんてある?(ないでしょ?)
こんな風にすっとぼけてみせる事で、当時の白人黒人の分断(と言うより一方的な嫌悪、差別)を憂う英国白人歌手が黒人音楽を介した融和の道を模索する姿勢を示しているのかも知れない。曰く、American も un-American も全部ひっくるめて American で、非米人なぞいない。
leather, leather everywhere は白人文化(革ジャン)で、myth left from the ghetto は黒人文化(ソウル)の事か。
Afro Sheen は主にアフロヘア向けのヘアケア製品なので、Afro-Sheeners はアフロヘアの黒人達を言うのだろう(sheen = 輝き、光沢)。
この商品のメーカー Johnson Products Company はボウイも出演した Soul Train の番組スポンサーだった。
黒人達の行儀の良さ!
この出演時ボウイは酔っぱらっていたと言われるがどうだろうか。
ソウルに魅入られたこのガリガリの白人が健康そうには見えないのだけは確かだが。
この頃の彼の顔色は white(白)を通り越して transparent(透明)と形容される事もしばしば。
I heard the news today oh boy
これはビートルズの A Day in the Life の一節。
このニュースとはニクソン辞任の報を仄めかすものなのかも知れない。ならばこの借用ラインも急ごしらえか。
アメリカを終の棲家としたボウイ。
やっぱ本作はアメリカ賛歌?
シビレるカバー
原版より控えめなハモに生ギター、見事なアンサンブル!このリズムならこの黒人の女の子達がノリ出すのも無理は無い。
(歌唱演奏の質もさる事ながら、中央に一本だけのこのマイクの性能!)
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