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歌詞和訳 Nirvana – Verse Chorus Verse コード

2000s

2004年発表のボックスセット With the Lights Out 所収。
別の曲 Sappy には以前、この曲名 Verse Chorus Verse が付けられていた。

Verse Chorus Verse

(Kurt Cobain)

 A F E D A C G F
 Neither side is sacred, no one wants to win
 Feeling so sedated, may I just give in?
 Taking medication till our stomachs’ full
 Neither side is sacred, crawling in a hole
どっちも神聖なんかじゃない、勝ちたい奴なんていない
鎮静剤で落ち着いている、従った方がいいか
俺達は腹一杯になるほど投薬される
どっちかが神聖なんて事はない、穴の中で這いつくばる

F# C# A C
 Grass is greener over here
 You’re the fog that keeps me clear
 Reinventing what we knew
 Taken time is all but true
 You’re the reason I feel pain
 Feels so good to feel again F# E
こっちの芝は青い
お前は俺を際立たせる霧
皆が知ってたものを再発明してるだけ
かかった時間が殆ど真実
お前がいるから俺は苦痛を感じる
また感じる事が出来て気分がいい

 Neither side is sacred, no one wants to win
 Feeling so sedated, but I can’t give in
 Giving medication till our stomachs’ full
 Feeling so sedated when I’m in my home
どっちかがエライなんて事はない、勝ちたい奴なんているか
鎮静剤で落ち着いている、でも従う事なんて出来ない
腹一杯になるまで投薬
家にいれば落ち着く

 Grass is greener over here
 You’re the fog that keeps it clear
 Reinventing what we knew
 Taken time is weird but true
 You’re the reason I feel pain
 Feels so good to feel again F# E
 Oh A F D
こっちの芝は青い
お前は霧だからそれがよく分かる
知ってるものからまた作っただけ
取られた時間は馬鹿らしいけど真実
お前がいるから俺は苦痛を感じる
また感じる事が出来て気分がいい
ああ

 Neither side is sacred, no one wants to win
 Feeling so sedated, may I just give in?
 Driven (聞き取れず) stomach (聞き取れず)
 Feeling so sedated when I’m in my home
神聖なサイドなんかない、勝ちたい奴なんていない
とても落ち着いている、もうこのままがいいか
(?)
家にいれば落ち着く

 Grass is greener over here
 You’re the fog that keeps it clear
 Reinventing what we knew
 Learn from history, all but true
 You’re the reason I feel pain
 Feels so good to feel again F# E
 Oh A
こっちの芝は青い
お前は霧だからそれがよく分かる
皆が知るものを再発明
歴史に学ぶ、それがほぼ真実
お前がいるから苦しい
また感じられて気分がいい
ああ

本作は第2作アルバム Nevermind の候補曲だった。つまり Butch Vig によるプロデュース。
どうも晩年のコベインによるこのアルバムへの嫌悪の表明が一人歩きしている様で気に入らない。あの大ヒットあったればこそ私の様な「にわかファン」に毛が生えた様な輩の耳にも届き得たのだ。
あの表明自体は事実だろうし、次のアルバム In Utero の開始曲 Serve The Servants のド頭に皮肉を(自身に対しても)ぶちかましている事からも彼の真意だろう。
ミックスへの不満も実際にあったのだろうが、あの音だったからこそあの時代において多くのリスナーが熱狂したのも事実。
本人の想像をも凌駕するその画期的流行に際してはあんな風にでも吐き捨てなきゃ(パンク的な)恰好が付かないってだけで、仮に「レコードが売れてとても嬉しい」なんて思ってたとしてもそんな事、言えるわけない。
だからそれを受けて聴き手が評価を変えるのは元よりおかしいし、いちいち取り立てる事も無かろう(と言って私自身が取り立ててしまった)。

ジャンジャカコードストロ-クの音は、あのアタックのカチカチ音から察するに、ハムではなくストラトの後か中後PUに聞こえるけど、録音時にストラトを使ってたかどうかは知らん(多分使ってない。中後PUに至っては、コベインがセレクターのあんな微妙な位置を選択するとはとても思えん)。
ま、PUはともかく、例えば Rape Me のイントロなんかと比べても、こっちの方が生々しく聞こえ臨場感があるし、拾うマイクが少ないからかフェイドインの様に少し遅れてジャーンと鳴るドラムのクラッシュも良い。この連チャンは特徴的で、グロールが叩いてるってすぐ分かる。チンチンライドもイカす。でもベースが全然聞こえんぞ。私の耳が悪いんだろうか?

 結論
Vig、Albini、どっちも良い(お前、ただのにわか Nirvana ファンじゃねーか!とか言わないの)。

この動画に対し一言、Grouchy Green Day (不機嫌なグリーンデイ)とコメントを投稿してる人がいた。
成る程、テンポを少し上げ、ギターを歪ませ、コードをベタな Am E7 Am F G にでもすれば、Billie Joe が歌っててもおかしくない(だけどバースとコーラスの間には何かブリッジが入り、曲名自体が破綻する様な気もする)。

いつ作られた曲か分からんので、作者がリハビリ施設に収容された実体験がモチーフかどうかは分かりかねる。
が、sedated や medication に鑑みれば最初の場面は病床。
しかも our stomachs とあるので、やはり施設か病院だろう。
ただ後出に my home とあるので、退院後の自宅療養の床で、自分の side にいる不特定多数者を代表して語っている事も考えられる。
二つの side は精神疾患者と健常者、或は(暗示的に)後述の alternative と main stream を表す。

weird but true 奇妙だが真実
事実は小説より奇なり、なんて諺があるが、weird と true の間には逆説的な親和性が生まれるのか、この言い回しはよく見られる。
 例) a weird but true story = 奇妙な実話
同種としては、メタリカの曲名にもある sad but true = 悲しいけど本当。
厳しい現実を甘受する為の修辞だろうか。

the grass is always greener on the other side (隣の芝生は青い)という諺がある。
自身のものより他者のものや状況の方が往々にして良く見えるという意味だが、この詞の中では、over here こっちの方が良いと言っている。この部分や、穴の中で這いつくばる、だとか、苦痛をも含めた感覚を持つ事の快感を表明している所などから推察するに、グランジ世代を形容する際に多用された apathy(無気力)どころか、俺にはまだ果たすべき使命があるという、作者のかなり強い生への執着を感じる。

現状の main stream に対しもう一方の side が抱く疑問や批判、またそれらから生じる虚無感を指して、絶対値がゼロの「無」気力などと簡単に呼ぶ。しかし方向が逆なだけで、実はベクトルは絶大だったのだ。

ところで、grass is green は、良い状況を表す際の、頭韻を踏んだありきたりな表現だが、これから私が想起するのは…

Take me down to the paradise city
Where the grass is green
And the girls are pretty…

Guns ‘N Roses の Paradise City です。

アクセル側は、シーンに擡頭する、レーベルメイトでもある Nirvana に秋波を送ったが、Soundgarden とは違い、コベインはこれを受け取るどころかあからさまな G’N R(就中アクセル)に対する酷評を始めた。
曰く、彼らにはファッションしかないが俺達にはパッションがある… とまあ(特に日本国内で)よく聞くけど、実際のインタビューなんかでこれを語ってるのなんか聞いた事ないし、こんな完全韻のベタなさっぶい事をコベインが言うかねー、と私は訝しく思ってます。
ただ彼らに対して否定的だった事は紛れも無い事実。
で、その事実を踏まえて…

You’re the fog that keeps me clear

You’re the reason I feel pain

この You にアクセルを代入すると、あら不思議、何だか随分と情景がはっきり見えて来ます。
彼らの確執が生じたのが Nevermind 後なのは私も承知しております。
ただ、Nirvana が underground 或は alternative だとするなら、当時の main stream の筆頭は G’N R である事に誰も異論は無いでしょう。そしてコベインは、彼らが Nirvana の存在を知るずっと前から、アンチテーゼとしての彼ら(恐らく Bon Jovi や Van Halen 等も含む)の存在を強烈に意識していたのは間違い無い。
そしてその痛烈な pain は使命感にフィードバックされ…

Feels so good to feel again
快感に変わり、そして先述の生への執着へと昇華する。

Reinventing what we knew にはコベインの音楽に対する謙虚で真摯な態度が垣間見え、そして、
Learn from history, all but true には彼の冷静な洞察が表われています。
これについては、別項 Ziggy Stardust にてインタビュー動画を引いて取り上げているので、ご関心の向きはどうぞ。

彼我対比の構図を Nevermind 以前に描いていたとすれば、上記の history を経験則に照らして時流を読む眼力はハンパじゃない。
In Bloom にもこうした洞察は見られます。
尤も、結果を知る者のただの後付けという憾みも否めませんが。

憶測ついでに…
彼らレーベルメイト同士の確執は、ゲフィンの仕組んだ、今で言う炎上商法じゃないかと勘繰ったりもします。
でも、ビジネスも含め、どんな形であれ、生への希求を持ち続ける事は出来なかったのか…
などと考えつつ、冒頭に戻ります。

Neither side is sacred, no one wants to win
作者には自身の side が絶対的に正しいなどという気は更々無い。勝負なんかじゃないんだ、と。
しかしそんな価値相対的な思考法は、物事を深く掘り下げるのに適する反面、気持ちが楽になる事は無く、心の平穏を与えてはくれないでしょう。

may I just give in?
この部分を私は最初、投薬者(医者)に従う事と解釈していました。
しかし、物事を深く考えるのに疲れ、鎮静剤で落ち着いている今、もうこのまま思考を断念した方がいいのか、という諦念を表明している様にも思えます。
あっちの side の様に耽美的享楽的で何がマズいんだ、と感じたかどうかは分からぬものの、少なくとも平静の心地良さを認めているのは間違い無い。
これはフツーの我々のフツーの感覚と何ら変わらないだろう。コベインだって人の子。

ところが、crawling in a hole 苦悶の後、
but I can’t give in
やはり諦めない。

そして続いてまた、
may I just give in?
しかし、直後の詞が聞き取れませんでした。口を開くのが面倒臭くなったのか、モゴモゴモゴモゴ…
おまけに、容赦ないクラッシュ連打。
出回っているものはただ上の詞を繰り返して記述しており、恐らく正確ではない。
sedated と medication がごっちゃになって seditation と歌い損じている様にも聞こえる(が、勿論こんな語は存在しない)。
ただ、ギリギリの葛藤を表す内容である事は間違い無いでしょう。

Jon Bon Jovi が数年前、あるインタビューでグランジについて興味深い事を話していた。

Grunge movement was healthy. And it was needed, American pop culture becoming shallow. But my peers from our kind of music all jumped on that bandwagon. Write like that, act like that, and be like that.
グランジムーブメントは健全なものだった。アメリカのポップカルチャーが軽薄になって行く中で必要とされたものだった。しかし我々の仲間は皆、あっちのバンドワゴンに飛び乗った。あんな風に曲を書き、演じ、振舞った。

表情ひとつ変えずにゆっくりと話すのが、誤解を与えまいと努めている様で、印象的だった。
音楽家としてのコベインに対する敬意も感じられる。
自分なりの分析を開陳した後、更に言葉を継ぐ。
「自分達はやり方を変える事などしなかった。だからこそ今までこうして生き残った」
無論こちらが主眼だ。無闇に流行に飛び付き勝ち馬に乗ろうとした結果消えて行った同業者をジョンは沢山見て来たに違い無い。

共通の友人のセバスチャンバックを介し、ジョンとアクセルは酒を飲みながら話をした事があるそうな。
そこでは、セールスもキャリアも先輩格のジョンの、ビジネスも含めた話にアクセルは聞き入ったらしい。

ジョンだってきっとグランジの隆盛には動揺したろうし、葛藤もあっただろう。
しかしあちらの side に歩み寄る事はせず、自分達の side で踏ん張った。これはある種、絶対的価値観を持つ者の強みだろう。
皮肉にもコベイン同様、彼我対比によって音楽界[産業]における自身のアイデンティティを再確認し、それを更に強固なものにした経緯が、our kind of music という表現に見て取れる。
さっき絶対的価値なんて言葉を使ったけど、こんなのも結果を知る者の錯覚ゆえの誤用か。
ジョンは Nevermind 以降のシーンを傍観し、否、注意深く観察し、オルタナのオルタナとしてやっていく覚悟を決めたのかも知れない。こんなインタビューを公開している時点で、少なくともオルタナシーンを強く意識していた事は間違いなかろうから。
そして Bon Jovi は結果的に生き残った。つまり win した訳だ。無論、本人は今、実際に生きてもいる。

それでも私はやはりこう思う。

Neither side is sacred

コメント

  1. 小松 より:

    楽しくこのサイトを見させていただいてる者です。コメント失礼します。前に古レコード屋で見た1992年の(致命的に何月号が忘れてしまいましたたしか6月当たり…)ロッキンオンのニルヴァーナの見開きインタビューで、カートが「俺達はパッションを持っているけどガンズンが持っているのはファッションだけだろ?」というインタビューを見ました!そこだけ写真あるので、送りたいのですが送り方が分からず…。失礼しました!

    • deni より:

      小松さん ようこそ

      日本語メディアの独占インタビューだったとすれば英語のソースが見当たらないのも頷けますね。やはり彼はそう発言したのでしょう。
      わざわざ情報をお寄せ下さりありがとうございます。

  2. 通りすがり より:

    情報元がwikipediaで自分の目で確認したわけでなく申し訳ないのですが、『ROCKIN’ON JAPAN』1992年1月号、 22頁のようですよ。

    • deni より:

      ウィキのニルヴァーナ(アメリカ合衆国のバンド)の項に「ガンズ・アンド・ローゼズはロック・スターになりたかっただけ」「ガンズ・アンド・ローゼズにはファッションしかない。俺たちにはパッション(情熱)がある」とありました。わざわざありがとうございます。