Google 翻訳の妥当性検証とそのアルゴリズムの帰納的解明の試み#2
第2回はビートルズ「ノルウェーの森」の歌詞を翻訳の原文として取り上げます。
65年発表の第6作アルバム Rubber Soul 所収。
Norwegian Wood (This Bird Has Flown)
(Lennon/McCartney)
I once had a girl
Or should I say she once had me
She showed me her room
Isn’t it good, Norwegian wood
↓
私はかつて女の子がいた
それとも、私は彼女がかつて私を持っていたと言わなければならない
彼女は私に彼女の部屋を見せた
いいよ、ノルウェーの木
She asked me to stay
And she told me to sit anywhere
So I looked around
And I noticed there wasn’t a chair
↓
彼女は私に尋ねた
そして、彼女は私にどこにでも座るように言った
だから私は周りを見回した
そして私は椅子がないことに気づいた
I sat on the rug biding my time
Drinking her wine
We talked until two and then she said
It’s time for bed
↓
私は自分の時間を抱きしめて敷物に座っていた
彼女のワインを飲む
私たちは二人まで話してから、彼女は言った
それはベッドの時間です
She told me she worked
In the morning and started to laugh
I told her I didn’t
And crawled off to sleep in the bath
↓
彼女は彼女が働いてくれたと言った
朝は笑い始めた
私は彼女に言わなかった
そして、風呂で寝るために這い上がった
And when I awoke I was alone
This bird had flown
So I lit a fire
Isn’t it good, Norwegian wood
↓
私が目を覚ますと、私は一人でいた
この鳥は飛んでいた
だから私は火をつけた
いいよ、ノルウェーの木
第1回のボブディラン「見張り塔からずっと」で見た通り、やはり改行が文に断絶を与え、訳出に影響しているのは同じ。
第1群
こんな風に接続詞には自動的に読点を付して訳出されるのかと思いきや、他ではそうであったりなかったり、まちまち。
第3群
biding(時機を待って)が「抱きしめて」と訳出されている。これはなぜだか全く見当がつかない。
第4群
「朝は笑い始めた」
すごい擬人化… まさかビートル達がキメてたのをマシンが見抜いた?
なわけないだろうから、改行を排し、ちゃんと前行と繋げて再入力してみる。
↓
彼女は朝に働いて笑い始めた
in the がきっちり拾われはした。
ただ一方、文の根幹たる主節 She told me をごっそり捨てるという不可思議な挙動。これはマズい。
そうだ、原文末尾にピリオドを配してみよう… すると何と訳文末尾に「と私に言った。」が付加され、翻訳は補完された。
ピリオドが構文の把握に有意に働くという事が分かりはしたが、訳出において看過できぬ重大な捨象が行われてしまっている事に変わりは無い。
それに鑑み現時点ではコンマやピリオドを正しく配し文を完結させて入力してやる事が肝要の様だ。
ここで取り上げている歌詞や韻文などは白文のまま食わせてもゲロを吐かれる蓋然性は高そう。
これは翻訳でなく検索だけど、DeNAのwelqとかいうインチキサイトを上位表示しちゃうんだからGoogleが運用するアルゴリズムも発展途上、というかずっと日進月歩なんだろうけど、システムを悪用して本質からかけ離れたもので利を得ようとするのは何も東欧の輩だけではない様だからまあいたちごっこってヤツか。
さて表題。これには「ノルウェーの森」という邦題が当てられ、小説にも借用されるなどして超有名。
しかし命名者たる当時の東芝のビートルズ担当ディレクターが翻訳ミスを認めており、今やこれは誤訳だというのが定説。曰く、正しくは「ノルウェーの木材」だと。
しかし、森を誤訳と断ずる事自体が間違っている。
実際、wood はこの単数形のままでも森を意味し得る。
今の辞書を当たってみると「[しばしば複数形で]森」と但し書きが添えてある。これは「森を言う時は複数形にする方が多いけど単数形の事もあるよ」という意味。
ただ私も学生時代、単数形→木材/複数形→森、と(それこそ機械的に)教わってそう覚えたし、辞書にもそう載っていたと記憶する(手持ちの古い辞書はしまい無くしてしまい、確認できず)。恐らく誤訳を認めた担当者も当時の辞書の記述を頼りにしたのだろう。
次に歌詞全体の解釈から wood の一語を振り返り見てみる。
女が男を自室に招き入れ、発した言葉
Isn’t it good, Norwegian wood
部屋の内装に使われているのは「木材」であろうが、その部屋全体を比喩的に「森」に見立てている可能性を全く排除する事は出来まい。つまり「内壁が木で、まるで森みたいな雰囲気でしょ?」と彼女は言っているのだ。
但し、最後に男が彼女の言葉を真似て発する同一の文言においては「木材」と取るのが妥当だろう。「ノルウェー産はよく燃えていいじゃないか」というわけだ。
この様に両義に解釈する英語話者も実際にいる。
ここでGoogle 翻訳が出した訳文に立ち返る。
「ノルウェーの木」
わっ、新鮮な響き。
森と木材の両方を想起させ得る中間的な言葉でもあるからこれがいいや。結果的にではあれ、この訳語の妥当性はとても高いと思う。
私はこれから勝手に本作を「ノルウェーの木」と呼ぶ事にします。
下の動画に付いたコメントを見ると、小説を読んでから歌の方を知ったという英語話者も多い。すると今や小説の方が元祖だと思ってしまっている人も恐らくいるだろう。
因に knowing she would 説についてはメディアの話の種くらいのものと個人的には見ている。
何にせよ本作はちょっとエロくてニヤリとさせる面白いお話… では終わらず、ヤラせてくれなかったから放火して溜飲を下げる変質者の独白。
以下は筆者のアルゴリズムが吐いた訳文とコード進行。
Or should I say she once had me
She showed me her room
Isn’t it good, Norwegian wood
まあ、いい様にされたと言った方がいいかな
僕に部屋を見せながら彼女が言った
いいでしょ、ノルウェーの森みたいで
And she told me to sit anywhere
So I looked around
And I noticed there wasn’t a chair
まあ好きなところに座ってと言う彼女
ならばと僕は見回すも
椅子の一つも無かった
Drinking her wine
We talked until two and then she said
It’s time for bed
出されたワインを飲みながら、その時を待つ
二時まで話をしたところで彼女が言った
もう寝る時間ね
In the morning and started to laugh
I told her I didn’t
And crawled off to sleep in the bath
笑い出す彼女
僕の方は仕事は無いと告げ
風呂場で寝るべくすごすごと部屋を後に
This bird had flown
So I lit a fire
Isn’t it good, Norwegian wood
籠の鳥は飛び去っていた
ならばと僕は火をつけた
彼女の言う通りいいじゃないか、
ノルウェーの木は
E
E Bm7 E
E Bm7 E
Em A
Em F#m B
追記
2019年12月21日放送のベストヒットUSAで小林克也が読み上げた訳詞には「壁紙のデザイン」とあった。これは彼の解釈なんだろうか。そして火を付けたのはタバコ。個人的には放火説のほうが気違っててオモロイと思う。
コメント
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%A3%AE
ポール・マッカートニーは次のように解説している。”Peter Asher had just done his room out in wood, and a lot of people were decorating their places in wood. Norwegian wood. It was pine, really, just cheap pine. But it’s not as good a title, is it, “Cheap Pine”?”(ピーター・アッシャー(フォークデュオ「ピーター&ゴードン」のメンバーで当時のポールの恋人ジェーン・アッシャーの兄)は部屋の内装をすっかり木造にしていたよ。多くの人が木材で部屋を飾り付けていたんだ。ノルウェー産の木材、松の木のことだよ。安物の松材さ。でも「安物の松材」じゃタイトルにならないだろ?)[4]
つまり、彼女の部屋に入ってみるとノルウェー産の木材で内装された「ウッド調の部屋だった」ということをあらわしており、woodは木材を指している。また、英国では”Norwegian wood”はしばしば労働階級の人が住むアパートの内装に使われる安物の木材を指すことがあり、そうした部屋に住んでいる彼女は、大して裕福ではない娘を表しているともいわれている(さらに部屋には椅子も置いていないと歌われている)。
大津栄一郎によれば、”wood”という単語は、”the wood”と定冠詞がつく場合以外の単数では森を意味しないという[5]。「森」は語学的におかしく、「ノルウェイ材の部屋」のような訳の方が正しいのではないかとしている。ただし一方で、「ノルウェーの森」の方がタイトルとしてははるかに良いということも述べている。
この説はアルバート・ゴールドマンによるジョン・レノンの伝記にも登場する[6]。
また、村上春樹は、「ジョージ・ハリソンのマネージメントをしているオフィスに勤めているあるアメリカ人女性から『本人から聞いた話』」として、”Knowing she would”(オレは彼女がそうすると(俗的に言えば「ヤらせてくれる」と)知って(思って)いた)という言葉の語呂合わせとして、”Norwegian Wood”とした、という説を紹介している[7]。
このwikiコピペを寄こした者の意図が分からんが、本稿への反証のつもりならば、定冠詞の件に絞って再反論。
The pond is in a wood. その池は森の中にある。
この様に不定冠詞を付す事で「ある森」を表す。よって「定冠詞がつく場合以外の単数では森を意味しない」は誤り。(反証終わり)
エラい先生の言う事だから絶対正しい、という権威主義的思考放棄が大っ嫌いという本サイト筆者の立脚点もついでに示しておく。興味おありの向きは、大津栄一郎 若島正、なども検索なされては。念の為、wiki編集者が引用元の見解を過不足無く記述し得ているかという別次元の問題がある事も付記しておく。
どうせならもっとちゃんと調べた本質に迫る参考資料を貼って頂きたい。wikiがその入り口として重宝するのは事実ではあるが。
コピペコメント等、本サイトの紙幅を浪費するに過ぎぬものは削除するつもり。異議あらばコメンター御自身の言葉でその旨を伝えられよ。