2015年発表のデビューアルバム Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit 所収。
Dead Fox
(Courtney Barnett)
And I must admit that I was a little sceptical at first, a little pesticide can’t hurt
Never having too much money
I get the cheap stuff at the supermarket
But they’re all pumped up with shit
A friend told me that they stick nicotine in the apples
私も最初は少し疑ってたのは認めなきゃね
農薬も少しなら無害でしょって
大金を手にした事なんてないから
私が買うのはスーパーの安物
だけど添加物なんかが全部入ってるし
友達はリンゴにニコチンが入れられてるって言ってたし
(I can’t see you)
If you can’t see me I can’t see you
私にもあなたは見えない
Taxidermied kangaroos are littered on the shoulders
A possum Jackson Pollock is painted on the tar
Sometimes I think a single sneeze could be the end of us
My hay-fever is turning up, just swerved into a passing truck
Big business overtaking without indicating
He passes on the right, been driving through the night
To bring us the best price
剥製のカンガルーが路肩に捨てられていて
オポッサムがジャクソンポロックみたいに路面に描かれていた
くしゃみ一つで死んでしまう事もあるって時々思う
花粉症も始まったし、すれ違うトラックに向かって行けばそれでおしまい
ウィンカーも出さず追い抜く大企業のトラック
右側を追い越して行く彼が
夜通し運転していたのは最安値を提供するため
(I can’t see you)
If you can’t see me I can’t see you
私にもあなたは見えない
Maybe we should mull over culling cars instead of sharks
Or just lock them up in parks where we can go and view them
There’s a bypass over Holbrook now
Paid for with burgers no doubt
I’ve lost count of all the cows
There’ll be no salad sandwiches
The law of averages says we’ll stop in the next town where petrol price is down
What do I know anyhow?
鮫より車の間引きをよく考えた方がいいかもね
それともみんなが行って見れる様な駐車場にただ車を閉じ込めてしまうか
ホルブルックを通り過ぎるバイパスが出来ていて
それがハンバーガーでまかなわれたのは間違いない
牛の全部の数は分からなくなっちゃったけど
サラダサンドイッチは無くなるだろう
大数の法則によればみんなガソリンは安い隣町で入れるはず
私にはどうせ何も分からないけど
(I can’t see you)
If you can’t see me I can’t see you
If you can’t see me I can’t see you
(I can’t see you)
If you can’t see me I can’t see you
私にもあなたは見えない
コートニーバーネットを何故か勝手に米国人と決め付けていたので、カーント(can’t)に勝手に面食らう。オーストラリアはメルボルンの人だった。
そして本作の背景としての当地の事情や彼女の身辺が分かれば詞が示すものも見えて来る。
冒頭の Jen はバーネットのパートナー Jen Cloher (を少なくとも仄めかすもの)。
the Highway Hume = the Hume Highway = メルボルンとシドニーを繋ぐ840kmの国道
possum < opossum = オポッサム(フクロネズミ)
Jackson Pollock = ジャクソンポロック、米国の(抽象)画家(1912-1956)
「剥製のカンガルー」は車に撥ねられそのままの形で死んだ骸、そして「描かれたオポッサム」は抽象画の様になってしまった轢死体のメタファー。
「右側を追い越」すのは彼の地が日本と同じ左側通行で右が追い越し車線だから。
駆除すべき鮫と必要悪の自動車を同じ俎上に乗せるのは勿論詭弁だが、まあこれは以って皮肉と成すべくすっとぼけているのだろう。
1番の「リンゴにニコチン」の件も風評の元となり兼ねぬ、ちゃんとした裏付けも無い言説だが、これも恐らく分かった上で敢えてやっている。
サビ
If you can’t see me I can’t see you
これは、上のMVのアニメのトラックにも書いてある、オーストラリアのトラックの後部によく貼ってあるステッカーの文言をもじったもの。
このトラックのミラーがあなたに見えなければ
こっちにもあなたは見えない
注意を促すサインなのは分かるが、まあ何と自分本位な…「死角にいたらどうなっても知らんぞ」と言っている様にも聞こえる。
Holbrook = ホルブルック = メルボルンとシドニーの間にある畜産業の町
これはオーストラリアに限った話ではないが、高速やバイパスの開通により素通りされてしまう様になった町は往々にして衰退してしまう。
皮肉にもホルブルック産の牛肉を使ったハンバーガーから得た税収がバイパス建設の財源に充てられたと作者は言う。
安い所を選んでガソリンを入れるのは平均的な購買行動。
本編の最後まで表題の Dead Fox (死んだキツネ)という言葉は出て来ないが、これはオーストラリア最大の物流会社 Linfox を暗示するもの。
世の中が大都会や大企業の論理で動いている事を作者は歌っているのだろう。
そこには to bring us the best price 良い値段でものを提供する、という大義名分がある。
without indicating ウィンカーも出さず、つまりこちらに何も知らせず、というのも何やら象徴的。
でもバーネットさん、あなたもメルボルンという大都会に住んで仕事してんでしょ、というツッコミは胸にしまっときます…
生もエレキもギターは指で(も)弾く人の方がエラいという偏見を持つ私は彼女の掻き鳴らし方にシビれる。
コメント
名前すら聞いたことのなかったミュージシャンですが、いい感じにユニークな詞で一読して好きになりました。ファンになりそうな予感……
安直なようですが、彼女のPedestrian at best の詞をdeniさんの譯解にて読んでみたく思います。あ、お暇だったらでいいですから……ほんとに……
いい感じです。ブラックフランシスにも一脈通ずる詞の多弁さ、そしてボブディランにも劣らぬ語りの多弁さ(私見)。
Pedestrian… 実はもう取り掛かってます、近日公開(予定)。