1991年発表の第2作アルバム Nevermind 所収。
Drain You
(Kurt Cobain)
I’m lucky to have met you
I don’t care what you think
Unless it is about me
It is now my duty
To completely drain you
I travel through a tube
And end up in your infection
あなたに会えたのは幸運だった
僕の事じゃなきゃ
何を思われても構わない
さあ、あなたを
すっかりはき出さなきゃ
僕は管を通って
最後はあなたの強い影響下に
C#
E C#
Pass it back and forth
In a passionate kiss
From my mouth to yours
B A G#
I like you
移しては返す
激しいキスみたいに
私の口からあなたの口へ
いとしいあなた
I’ve become your pupil
You’ve taught me everything
Without a poison apple
The water is so yellow
I’m a healthy student
Indebted and so grateful
Vacuum out the fluids
僕はあなたの弟子になった
毒林檎も使わず
あなたは僕に全てを教え授けた
小便が黄色いから
僕は健康な生徒
恩義を有難く思う
その液体を吸い出してくれたら
→(chorus)
(interlude)
→(verse 1)
Pass it back and forth
In a passionate kiss
From my mouth to yours
Sloppy lips to lips
You’re my vitamins
I like you
行ったり来たり
激しいキスみたいに
私の口からあなたの口へ
べとべとの唇から唇へ
あなたは私のビタミン
いとしいあなた
*弦1音下げ
第1バース
I’m lucky to have met you と It is now my duty to completely drain you は作者コベインの当時の恋人 Tobi Vail が実際に彼に言った言葉(と言われる。後者は別れる際に)。
真偽の程は知り得ぬが、それを解釈に援用してみます。
すると、上記以外はコベインの語り(完全な対話形式かはビミョー)で、サビはベイル、第2バースはコベインによる、こちらは発話でなく、所感。
drain は日本語に言うドレン=排水(する)
恋人ベイルはこのラインを、一つには、コベインをすっかり忘れ去る、または完全に縁を切る、という意味で使ったのか。
他方、直後の tube と infection の件に鑑みれば、彼を新しい世界に産み落とす、という含意が認められる。
(すると、冒頭の baby は恋人と赤子の両義か)
Breed にも描かれている通り、彼は彼女に思想的洗礼を受けているので、infection の訳出にあたっては「感染」よりも正負両義を纏った「影響」の方が適当だろう。
サビは、母親による、生まれ落ちた子と自身の描写と取れる。
いとしい子に食物を与える母。
meat は字義通り、子の滋養となる食用の肉…
ただ、back and forth(往復)からすると、恋人同士で語り合った互いの思いや考えの隠喩とも取れる。
実際それらは後に彼の血となり肉となったのだろうから。
因にこの言い回しは日本語と英語とで比喩としての意味も合致する。
例) この経験は私の血となり肉となるだろう。
This experience will become my blood and flesh.
一方 passionate kiss や後出の sloppy lips からすると、今度は男女の体の交わりを暗示している様にも取れる。
総合すれば、二人の間に精神的肉体的に激烈な接触があり、彼は infection などと表現する程に強い影響を彼女から受けた、という事になろうか。
第2バース
dilate = 広げる
余談だが dialate と誤表記される事が多い。
これは一つには dial(ダイアル)という既存の言葉に引っ張られるのに加え、子音 l の母音的な性質によるものだろう。
実際のコベインの歌唱も l に拍(モーラ)があるかに聞こえる。
続いて pupil や student という言葉が登場する。本作がベイルから思想的影響を受けた旨の告白である事の裏付けになろう。
もう一方の「瞳孔」の意における pupil は dilate の関連語と言える。
と言うのもこんな連語があるから。
pupil dilation = 瞳孔散大
言葉遊び、と言うより寧ろここから詞を組み立てたのだろう。
poison apple も無しに教わったというのは、強要される事も無く感化されていった事を表すのだろうか。
ここで思い出すのが同じアルバムの一つ前の曲 Territorial Pissings の一節
If so it’s a woman
会ったとしてもそれは男でなく女だった
the water が尿、the fluids が羊水を指し、更には先出の tube が産道(birth canal)を表すのであれば、第3作 In Utero のテーマとも言うべき母体と生命に纏わる描写の系譜の始点は第2作中の本作にあったと言える。斯様に彼の歌は色んな所でリンクするからオモロい。
さて次に、曲調から切り込んでみます。
本作に限った話ではないが、コード進行が非凡独特。
歌メロありきで普通にコードを付ければこうなる筈。
バース
C#m B
A G#7
サビ
B A
G#m
C#m G#m
B A G# (最後は同じ)
伴奏楽器をお持ちの方、この平凡進行で歌ってみて下さい。
何ともセンチメンタルな(だけの)歌に変わっちゃうでしょ?
曲調が詞の解釈にすら影響を与えそうな程。
それでいて着地点 I like you の所は共に感傷を通り越して虚無的な響き。
非凡な音感を持つコベインによるこの非凡進行はオルタナティブの真骨頂。
同時進行のパラレルな世界の表現を試みたかどうかは知る由もないが、メジャー(パワー)コードを多用した表向きアッケラカンな展開の裏に、ベイルがもたらした思想的動揺に耐えようとする彼の苦悶の姿が見え隠れする。
love でなく like なのは純粋な親愛かそれとも強がりか。
ただ我々からすれば非凡でも、彼にとっては心情を表現すべく取った当たり前の手段なのだろう。
ところで伝記著者によれば、本作の解釈にあたっては冒頭のライン
One baby to another says I’m lucky to have met you
が特に重要だとコベイン本人が言っていたらしい。
この部分の話者が実はベイルでなかったら解釈をやり直さなければなりません。
でもやりません…
ノーマルチューニングにつき、1音高いキー、つまりコード表記そのままで歌唱演奏。
デイブグロールのドラムとハモの安定感!こぶしまでハモる。
ここでは半音下げチューニングで同じポジションを弾いているので実質キーはスタジオ版より半音高くなっている。
パットスミアのギターも同様。クリスノボセリチのベースはノーマルっぽい。
その日のコベインの喉の調子に合わせてキーをいじっていたのだろうか。
One baby to another says → said
3年経過し、ベイルとの思い出が遠い過去のものとなった?
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