1971年発表の第9作(英国)/第11作(米国)アルバム Sticky Fingers の開始曲。英2位、米1位を記録した大ヒットシングル。
Brown Sugar
(Jagger/Richards)
F
Sold in the market down in New Orleans
C
Scarred old slaver knows he’s doin’ alright
Bb C
Hear him whip the women just around midnight
売られる市場はニューオーリンズ辺り
傷持ち年寄り奴隷売りはよろしくやってて
真夜中には女達を鞭打つのが聞こえる
Brown sugar, just like a young girl should, aha
美味いんだ、あはん、まるで若い娘みたいに
Lady of the house wonderin’ when it’s gonna stop
House boy knows that he’s doin’ alright
You should have heard him just around midnight
いつ終わるのかとあきれる女主人
使用人もよろしくやってるから
真夜中に聞いてみりゃよかったな
Brown sugar, just like a young girl should now
黒砂糖、もうまるで若い娘みたいに
(sax solo)
Ah, brown sugar, just like a black girl should
ああ、黒砂糖、まるで黒人の女の子みたいに
And all her boyfriends were sweet sixteen
I’m no schoolboy but I know what I like
You should have heard me just around midnight
ボーイフレンドはみんな若い盛りだったんだろ
俺も子供じゃねえ、やりたい事は分かってる
お前も真夜中に聞いてみりゃよかったな
Brown sugar, just like a young girl should
黒砂糖、まるで若い娘みたいに
C
How come you, how come you taste so good
Yeah, yeah, yeah, woo!
Just like a, just like a black girl should
Yeah, yeah, yeah, woo!
一体、どうしてお前はそんなに美味いんだ
イェーイ
まるで、黒人の女の子の味だな
イェーイ
just like a young girl should
サビのこの一節を「女の子の模範」みたいに取ったネット上の誤訳は should を何とか訳出しようとした真面目さが裏目に出たものだろう。でもまあ大体、should = すべき、と通り一遍に教わるから彼らは悪くない、英語教育が悪いんです。とは言え学校だって基本は大学で原書を読ませる為に書き言葉としての英語を教える所。
事程左様に助動詞はその一語にさえ叙想の意味合いを含んでいたりするので、状況/場面が規定するその語感を書き言葉(の勉強)から習得するのは中々難しい。加えて歌い手が詞の行末にわざわざ語を足したり語順を変えたりして音を揃える事があるなんて学校じゃ教えてくれない。と、ここで正解をバラしちゃったけど、つまり should は訳出にあたって無視していいもので、副詞句に(助)動詞を付加して副詞節とするにしても代動詞 does で良い所をわざわざ should にしているのは前行末の good に押韻して調べを整える韻律上の工夫に他ならない。
それでも訳せと言われりゃ should 以下も足して
just like a young girl should taste (so) good
まるで若い娘がフツーに(めっちゃ)うまい味がするみたいに
はい野暮になった…
主節の How come は How did it come to be like this? が縮まったものなので、(just) like と従属節が後続するのも自然と言えようか。
ローリングストーン誌によるミックジャガーへのインタビュー(アーカイブより引用)
This is one of your biggest hits, a great classic, radio single, except the subject matter is slavery, interracial sex, eating pussy . . .
[Laughs] And drugs. That’s a double-entendre, just thrown in.
Brown sugar being heroin?
Brown sugar being heroin and —
And pussy?
That makes it . . . the whole mess thrown in. God knows what I’m on about on that song. It’s such a mishmash. All the nasty subjects in one go.
Were you surprised that it was such a success with all that stuff in it?
I didn’t think about it at the time. I never would write that song now.
Why?
I would probably censor myself. I’d think, “Oh God, I can’t. I’ve got to stop. I can’t just write raw like that.”
本作が差別的だという見方は英語話者の間にもある。解釈は聴き手の勝手だから一向に構わない。但しその伝で行くと Been A Son なんて歌を歌うカートコベインは完全な性差別主義者で、イギーとボウイが作った China Girl は白人による黄人軽視の印象を与えるから彼らも非道い人種差別者、って事になる。歴史家だって史実を詳述して後世に伝えてる時点で差別的蛮行に手を染めてる事になりゃせんかい。
行為者でなく言及者について安易に差別的と断ずる事の方がよっぽど差別的だと思うが、まあそもそも言語活動自体が区別的差別的行為… なんて言い出したら余計ややこしい事になりそうだからやめよう…
上のジャガーの発言(太字)の最後の自己検閲の件は差別に関するものでなく表現が明け透けに過ぎた事に言及するもの。決め打ちのインタビュアに対してすら精一杯誠実に返答している。ただ少ししおらしい態度を示す事で不本意な憶測を収束させる意図もやはりあったろうと察する(が、それが奏功したかはまた別の話)。
60年代のポピュラー音楽市場を席巻する事になる英国の若い白人達が血道を上げたのは米国のブルーズだった。
そんな音楽文化を悲惨な境遇にありながら逞しくも産み出した黒人音楽家へのオマージュ、というのが私の本作の印象(少しややこしい、曲解されかねぬものではあろうが)。
取り分けチャックベリーへの崇敬が垣間見える。New Orleans や sweet sixteen というキーワードから Johnny B. Goode や Sweet Little Sixteen を想起するのも私だけではあるまい。
I am so sad to hear of Chuck Berry's passing. I want to thank him for all the inspirational music he gave to us. 1/3 pic.twitter.com/9zQbH5bo9V
— Mick Jagger (@MickJagger) March 18, 2017
His lyrics shone above others & threw a strange light on the American dream. Chuck you were amazing&your music is engraved inside us forever
— Mick Jagger (@MickJagger) 2017年3月18日
good/should を含む本作の見事な押韻も曲構成も偉大な先達に倣ったもの。既にロックは時代遅れと見なす者もいた70年代の風潮に当てたカウンターでもあったのだろう。
デビューから半世紀が過ぎ、2016年に至って尚、カバーアルバムを作ってまでブルーズとその作者/演者にオマージュを捧げ続けている彼らはある意味とても守旧的。ソロ活動時の小林克也とのインタビューでジャガーが自身について音楽的に保守的だと語っていたのを思い出す。
と、こう書いては来たが、別に彼を擁護する気も無けりゃ義理も無い(あった所で彼に何の利益も無けりゃ痛痒も無い)。
本作から離れれば、人間としてはやはり彼も cold English blood を引く多くのアングロサクソン系と同等に差別的な面もあろう、というのが私の偏見。
シーシェパードとの関係の真偽は知らぬが、さもありなんといった所。まあ彼らは politically incorrect だと騒ぎ立てる事が金になるって知ってるからね。(空疎な)社会正義実現欲求を(身勝手に)満たす事も同時に出来てさぞ taste so good 気持ちいいんだろうなあ(蛇足)。
heroin じゃなくって Cocaine のクラプトンがスライドギターを弾く。だけどアウトテイクとなった。
本作を録音した米国アラバマ州シェフィールドのスタジオ Muscle Shoals Sound Studio の記念コンピアルバムにスティーブンタイラーが参加。ジャガーのものまねとの批判に閉口させられてきたタイラーがストーンズ曲を快唱。
追記
とうとう”高尚”なキャンセルカルチャーが本作をセットリストから外す事に成功…
ところが…
さてバンドが耳を傾け尊重するのはショウに足を運ぶファン?それとも(恐らくファンですらない外野の)イデオローグ?
頑張れフツーの音楽愛好家達!
コメント
ありがとうございます
今般のキャンセルの行方について記事引用して追記しました。
ブラウンシュガーがUK Singles Chart で最高位2位だったときに、
とうしても抜けなくてブラウンシュガーの1位を阻み続けたのが、
ドーンのノックは3回(5週連続1位)。あのトニー.オーランドのトボケ顏が邪魔し続けたと思うとムカつく。
おかげでストーンズの最終UKシングルNo.1はホンキー・トンク・ウィメンのままだ。(・へ・)
そうなんですね。本国で70年以降1位を獲ってないなんて意外でした。
調べてみたら米国では本作の後、73年の Angie も1位で、最後が78年の Miss You でした。