1983年発表の第15作アルバム Let’s Dance の表題曲。英米で1位を記録したヒットシングル。
Let’s Dance
(David Bowie)
Eb Eb7
Ah Ah Ah Ah
Bbm11 Bbm6 Gb6 Bbm7
Gb6 Bbm7
Let’s dance – To the song they’re playin’ on the radio
Let’s sway- While color lights up your face
Let’s sway – Sway through the crowd to an empty space
ラジオから聞こえる歌に合わせて
君の顔が色めく中
揺れて、人ごみから誰もいない所へ抜け出そう
Ab Eb7
And if you say hide, we’ll hide
隠れろと言うなら身を潜めるよ
Db Eb
Would break my heart in two
Eb7
If you should fall into my arms
And tremble like a flower
君が花の様に揺れたら
君への思いが
僕の心を引き裂いてしまいそうだから
Let’s dance – For fear tonight is all
Let’s sway – You could look into my eyes
Let’s sway – Under the moonlight, this serious moonlight
踊ろう、今夜が最後だなんていやだから
揺れよう、僕の目をご覧
揺れよう、月光の下で、このただならぬ月光に照らされて
And if you say hide, we’ll hide
隠れろと言うなら身を潜めるよ
Would break my heart in two
If you should fall into my arms
And tremble like a flower
君が花の様に揺れたら
君への思いが
僕の心を引き裂いてしまいそうだから
Let’s sway – Under the moonlight, this serious moonlight
揺れよう、月光の下で、このただならぬ月光に照らされて
(SRV guitar solo)
後に大ヒットするこのアルバムの輪郭を形作ったのは一枚の写真だった。
Nile, darling, the record should sound like this!
「ねえナイル、今度のアルバムはこの写真みたいな音になったらいいな!」
視覚情報を提示して聴覚情報を語るボウイ。しかしナイルロジャーズはピンと来た。そこに写っていたのは…
Little Richard in a red suit getting into a red Cadillac
赤のキャデラックに乗り込もうとする赤のスーツを着たリトルリチャード
それは一昔前の写真なのにスーツも車もモダンに見え、不思議とロジャーズにはボウイの意図する所がはっきり分かったのだった。
そして生意気にもこの記事を読んで私もピンと来た。
Let’s Dance の10年前の73年にボウイはカバーアルバム Pin Ups を発表し、先輩達の歌をなぞって原曲の作者演者への憧憬と敬愛を表していた。そして今回は更に遡り、少年時代に自身が音楽に興味を持つきっかけとなったリトルリチャードを持ち出す。ただこれはリチャードをカバーするのではなく、また彼の様な音にしたいという事ですらなく、幼かったボウイが彼から受けた鮮烈な印象を今度は自身が聴き手に与えたいという事だったのだろう。
ビスコンティを裏切ってロジャーズに下駄を預けたのは特に米国巨大音楽市場での商業的成功を目論んでの事だろうと意地悪くも思っていたが、アルバム制作の根底には実は少年の純粋な思いがあったのだった。何だか妙に腑に落ちると同時に考えを改める(ロジャーズが後付けの美談を捏造したとは思えない)。
斯くして英国の白人少年が抱いた米国の黒人歌手への憧れの種は、その意を瞬時に酌み取った米国の黒人プロデューサーの手により一つの作品へと結実する。
本作の詞は月下のただならぬ雰囲気にかこつけて女をナンパする男の粋がった独白に過ぎぬ。これまた意地悪な見方と言われればそれまでだが、少なくとも私にはそれ以上のものは読み取れない。
ただ、ロック音楽の起源との呼び声高い、件のリチャードの Tutti Frutti にしたって、その詞は一言で言えば性欲を表しただけのもの。
まあロックなんてそんなもんさ。何て事もないロマンチシズムやノスタルジーの表現、或はその手段。一方、だからこそ人を生理のレベルで魅了する事があるのも事実。高がロック、然れどロック。でもやっぱ高がロック?
英白人歌手と米黒人プロデューサーの化学反応の触媒となったのが米白人ブルーズギタリストのスティービーレイボーン。本作を含む曲の要所要所に彼のギターソロが光る。ボウイのボーカルに負けず劣らずギターが歌う(それに引き換えビデオでのボウイのギター当て振りのダサい事。あの白手袋は何じゃ?)。
片やリズムギターはプロデューサーのロジャーズが兼任。このリフやリックも秀逸。
本作のリフのシンコペはカッティングの様に聞こえるが実はディレイ(delay = 遅れさせる)という音響効果を上手く使ったもの。かく言う私もずっとカッティング巧者ロジャーズの手動だと漠然と思っていたが、恐らく1小節にストロークは4回だけで、残りの音は自動反復させたもの(とその残響)。
なぜ気付いたか。レイディガガのグラミーでのボウイ追悼パフォーマンスにロジャーズが客演し、そこで弾いた本作のリフがベタで、その音数が明らかに少なかったから。
因に、今のボウイのマネジメントとは折り合いが悪いのだろう、ガガの動画は削除されそのパフォーマンスは葬り去られている。
追記
In late 1982, David Bowie was visited at his home in Switzerland by Nile Rodgers to listen to songs for the album that became LET’S DANCE.
Inspired by the new songs that Bowie had written the pair decided to record a set of demos straight away. Without a band, the Montreux Jazz Festival organiser, Claude Nobs, was asked if there were any local musicians that could join the sessions to work on the demos. Turkish born Erdal Kızılçay, who would later work extensively with Bowie on Labyrinth, The Buddha Of Suburbia & 1. Outside, was recruited to play bass along with an unidentified drummer and second guitarist.
82年の暮れ、ボウイはスイスの自宅にナイルロジャーズの訪問を受け、後の Let’s Dance のアルバム曲を聴いてもらう。
ボウイが書き溜めていた新曲に刺激され、すぐに二人は一連のデモの録音に取り掛かった。演奏者がいなかったので、モントルージャズフェスティバル創設者のクロードノブスに頼み、デモのセッションに参加できる地元ミュージシャンを探してもらう。後にラビリンスや The Buddha Of Suburbia、1. Outside で仕事をする事になる、トルコ生まれの Erdal Kızılçay が採用された。今や名の分からぬドラマーと第二ギタリストと共に。
Deep Purple の Smoke on the Water の詞中にも登場するクロードノブスがここにも一枚噛んでいたのはちょっとびっくり。
彼がいなければ、そしてセッションに参加した(恐らく無名の)ドラマーとギタリストがいなければ、ロジャーズの言う「フォークソング」だった原曲が80年代を象徴するダンス曲に化ける事も無かったのかも知れない。
Happy Birthday @DavidBowieReal
You changed my life forever!@nilerodgers pic.twitter.com/8SrE4VWJws— Nile Rodgers (@nilerodgers) 2018年1月8日
これもロジャーズの弁
If you played 2nd guitar or drums let us know who you are!
ギターとドラムを演奏した方がもしいたら名乗り出て下さい!
ボウイが Slip Away の詞中に特筆する1982とは、創作意欲の漲っていた Let’s Dance 発表前夜を言うのだろうか。
お、ロジャーズが「フォークソング」と呼んだボウイのデモが公開!
と思いきや、既にバンド形態だった。
もう殆ど Chic だなこりゃ…
このスネアのリバーブの強さからすると原版のはゲートリバーブ?
spoken intro
We can only go wrong. Mind you, it’s a 100-franc fine every time you go wrong, but that’s okay up front, huh? This is James Brown band, ha ha ha, ha ha ha ha!
マズくなる一方だね。いいかい、ミスる毎に罰金100フラン。でも大丈夫だろ、前払いで?ジェームズブラウンのバンドさ、ははは、はははは!
spoken outro
That’s, that’s it, that’s, that’s it. Got it, ha ha, got it.
そう、これだよ。つかんだね、はは、うまくいった。
ポンドでもドルでもなくフランなのはここがスイスはモントルーのスタジオだからなのだろう。
SRVはまだいない。ボウイが彼のギタープレイを見初めたのは当地のジャズフェスティバル。このセッションの後なのだろうか。
いたずら小僧の様によく笑うボウイ。
で、JBってそんな恐怖政治を敷いてたの?
また追記
1:04
ロジャーズ本人がボウイの12弦 folk music デモを再現。
オマーハキームが歌って叩く人だったとは知らなんだ。
7:22
彼のストロークは1小節に3回。4拍目も残響音か。
ソロのトーンがSRVっぽい。
ミキサーのボブクリアマウンテンのインタビュー
24:40
ロジャーズのリフは just three strums 3回弾いていただけ、との由。ただそれだとつまらないと言うのでクリアマウンテンが当時使っていたオープンリールの Studer B67 でテープディレイをかけようとしたが、なぜかプリセットのピンポンディレイが作動し左右に動く音が出力される。彼はすぐに修正しようとするも、ボウイとロジャーズが慌てて「いや、それがいい、そのままでいこう」と彼を制止。
一方ロジャーズの述懐は「退屈なリフにクリアマウンテンが見事なエフェクトをかけてくれた」というもので、ミスから生じた幸運という事実は彼の記憶からは抜け落ちている模様。
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